非常に低温の環境では、自然に形成された細い氷の台座の上に不安定に石が乗っかる謎の現象が確認されています。
主に低高度の氷河や、ロシアのバイカル湖などで確認されるこの現象は、見た目が日本庭園の石に似ていることから「バイカル禅(Baikal Zen)」と呼ばれています。
これまでこの現象についての予想はあったものの、同じ現象を実験室で再現することはできずにいました。
しかし、フランス国立科学研究センター(CNRS)はこの現象を実験室で再現することに成功し、その動画を公開しています。
研究の詳細は、今週、科学雑誌『米国科学アカデミー紀要:PNAS』に掲載されるとのことです。
神秘的「バイカル禅」の再現実験
ロシアのバイカル湖などでは、細い氷の台座に乗っかった不思議な石が見つかることがあります。
これは、日本庭園に飾られる石に似ているということから、海外では「バイカル禅(Baikal Zen)」あるいは「禅石現象(”Zen stone” phenomenon)」という呼び方をされているようです。
このような不思議な現象が起きる理由については、予想はされていても実証されたことがこれまでありませんでした。
しかし今回、クロード・ベルナール・リヨン 1大学 (Université Claude Bernard Lyon 1)とCNRSの研究チームが現象の理論を発見し、実験室で現象の再現に成功したのです。
再現された実験の動画がこちらです。
この動画を見ると分かるように、バイカル禅は石が氷に持ち上げられて細い台座に乗っているわけではなく、石の下の氷だけが残って回りの氷がすべて溶けてなくなることで形成されています。
これは固体から気体に直接形態変化を起こす「昇華」に起因する現象なのだと研究者は説明します。
自然では太陽光の熱で昇華する氷を、石の影が保護することで、石の下の氷だけが残り、回りの氷が消えてしまうため不思議な石の台座が形成されるのです。
そんな簡単な原理なら、すぐにも解明されていて良さそうに感じますが、この現象が起きるにはいくつかの条件が必要なようです。
研究者によると、これは影を作る石の大きさと石の持つ熱伝導率が重要な要因となり、また液体の水ではなく空気の対流が重要だったと語っています。
実験では花崗岩の下には、氷の台座はできず、ポリスチレン(発泡スチロール)だと下にうまく氷の台座ができたといいます。
花崗岩は熱伝導率が高く、そのため熱が氷に伝わり台座も溶けて結局沈んでしまいます。
熱伝導率の低い素材の場合、氷は周囲の温かい環境から保護されて残るのです。
また、薄い石の方が厚い石より台座が形成されやすいこともわかりました。
これは薄い石の方が環境と接する表面積が少なくなるため、熱の吸収が少なくてすむためです。これはCPUの熱を吸収するフィンの原理と同じことでしょう。
また実験では影を作る石の大きさは最低でも10cm以上の幅がないと駄目だったといいます。
実験と自然環境では、こうした条件には誤差があるでしょうが、こうした諸条件が複雑に絡むため、これまで単純な実験方法ではなかなかうまく氷の台座が形成されなかったのでしょう。
自然現象はときに、人為的な実験よりも複雑で神秘的な状況を生み出しているようです。
参考文献
Zen stones naturally placed atop pedestals of ice: A phenomenon finally understood
How Glaciers Set a Table
元論文
Sublimation-driven morphogenesis of Zen stones on ice surfaces
Onset of Glacier Tables
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功