鳴鳥(なきどり)と呼ばれる歌うタイプの鳥たちは、歌を通じて仲間とコミュニケーションを取っています。

そして鳴鳥たちの歌には、音節数で分類されるいくつかの決まったパターンの歌があります。

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、鳥の脳内の電気信号を読み取ることで、その鳥がいつどのような音節で歌おうとしているか予測することに成功したと発表しています。

この研究は、しゃべらなくても人間の発話を脳波から読み取れるブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)の開発へ一歩近づく成果です。

研究の詳細は、科学雑誌『PLoS Computational Biology』に9月23日付けで掲載されています。

目次

  1. 脳波から言葉を読み取る研究
  2. 鳴鳥の歌は人間の発話と同じように脳で処理されている

脳波から言葉を読み取る研究

会話や歌などの発声は、特定の脳領域から筋肉群に指示を出して調節する必要がある一種の運動過程とみなすことができます。

そのため、しゃべったり歌ったりする行為は、何を発声しようとしているか脳波から読み取れる可能性があります。

こうした研究では、話す能力を失った人の代わりに機械がしゃべるという未来を目指して進められています。

とはいえ、人間の発話は非常に多様で複雑です。

そのため人間の脳波から言葉を読み取る研究も行われてはいますが、もっと単純なサンプルを用いた基礎研究を進めるチームも存在しています。

今回の研究チームがその1つで、彼らはキンカチョウなどの鳴禽類の脳活動から、鳥の声の振る舞いを予測する方法を探っています。

鳴鳥の歌声は、音節で区切られたパターンを持っており、これは人間の発話と類似しているため、研究者にとっては興味深い事例です。

人間も鳥も、発声は複雑で学習を伴った行動です。

研究チームはオスの成体のキンカチョウの脳にシリコン電極を埋め込み、鳥が歌っている間の神経活動を記録しました。

脳波から「鳥が考えている歌声」を予測することに成功
(画像=実験の内容。オスのキンカチョウの音声録音(C)とそれに対応する神経活動(D)。 / Credit:Daril E. Brown II et al.,PLoS Computational Biology (2021)、『ナゾロジー』より 引用)

ここで測定されたのは局所電位(LFP)と呼ばれる電気信号のセットです。

これは人間の声の振る舞いを予測する信号として注目されていて、人間の脳において徹底的に研究されてきましたが、鳴鳥の脳で研究されたことは、これまでありませんでした。

そこで、今回の研究チームは、キンカチョウから同じ信号を測定して、彼らの歌声の振る舞いを予測できるかどうか確認してみたのです。

鳴鳥の歌は人間の発話と同じように脳で処理されている

鳴鳥の歌には種類があり、それは音節をどのような順序で歌うかによって区別されています。

研究チームは、人間の発話に関連する局所電位が、鳥の歌の特定の音節に変換できること、また歌の中で音節が発生するタイミングを予測できることを発見しました。

脳波から「鳥が考えている歌声」を予測することに成功
(画像=実験の流れを示す図。局所電位から鳥が次に何を歌おうとしているのか予測することに成功した / Credit:Daril Brown/ University of California,Decoding Birds’ Brain Signals Into Syllables of Song,(図中訳:ナゾロジー編集部)、『ナゾロジー』より 引用)

この研究のシステムからは、歌を構成する音節の順序変化を予測することができます。

例えば、鳥の鳴き声が「1、2、3、4」という音節の繰り返しで構成されていて、ときどき、その音節が「1、2、3、4、5」や「1、2、3」のように変わることがあるとします。

このような変化が、測定した局所電位の特徴から明らかにすることができるのです。

上の図で示されているのは、キンカチョウのオスが「1,2,3」という音節で構成される歌を歌いながら、次に歌う「4」という音節を考えている場合です。

このとき鳥の神経活動から抽出された局所電位からは、この次に歌おうと鳥が考えている「4」の音節の特徴を見つけることができ、彼らが発声せずとも、彼らの歌おうとしている内容を予測できるのです。

人間は1つの文を何度も繰り返すわけではないので、脳波の特徴から発声内容の変化を検証することは困難です。

そのため、決められた音節を繰り返す鳴鳥を利用した今回の研究は、重要な意味を持っており、非常に興味深い結果です。

これは、将来、声を失った人が発生せずに機械が代わりにしゃべってくれるような、ブレイン・コンピュータ・インターフェースを開発するために役立っていくでしょう。


参考文献

Decoding Birds’ Brain Signals Into Syllables of Song

元論文

Local field potentials in a pre-motor region predict learned vocal sequences


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功