音楽の起源が解き明かされました。
12月30日に『bioRxiv』に掲載された論文によれば、音楽の起源は私たちの先祖が木から木への危険な跳躍をするなかで生じたとのこと。
どうして肉体的な動きであるジャンプが音楽の起源になるのか?
と疑問に思う方もいるかと思いますが、研究は肉体の動きと音楽の間に潜む関係性を探り当てました。
ジャンプと音楽の間には、いったいどんな関係があるのでしょうか?
音楽は生存に必要ない
ノーミュージック・ノーライフ(音楽がなければ人生もない)と言われるように、音楽は私たちの人生を彩る重要な要素です。
しかし生物学的な側面からみれば、音楽は必要ではありません。
音楽がなくても人間は生き伸びて子孫を作ることができるからです。
しかし世界中で人間は、音楽を作り、鑑賞を続けてきました。
問題は、この音楽にかかわる能力が、いったいどこに起源があり、なぜ現代に生きる私たちに継承されていたかです。
光のない洞窟に住む魚やエビが目を失ったように、生存に無用な能力は進化の過程で失われていくのが常です。
ですが音楽的な能力は、ほぼ全ての人類に継承されています。
音楽には、まだ知られていない生存にかかわるメリットがあるのでしょうか?
私たちが二足歩行を行う前、樹上生活をしていたときまで遡ると、音楽を作るメリットがあったのです。
木から木へのジャンプは高度な肉体制御が必要
かつて、私たちの祖先が樹上で生活していたころ、果物を食べつくした木から別の木に移動するには、大きくジャンプをする必要がありました。
しかし、このジャンプは簡単ではありません。
目的とする枝の強度評価、距離の測定、必要な筋肉の調節、そしてタイミングをあわせて枝を掴む一瞬の判断力。
全てに高いレベルが求められます。
このジャンプを上手くおこなえるサルは、他のサルに先駆けて果実を手に入れ、生存を確かなものにすることができました。
そして優れた能力は進化の過程で凝縮され、サルたちの跳躍力はより洗練された動作になっていきました。
また肉体にかかわる進化は、常に外見の変化のみに限定されるわけではありません。
高度で技巧的なジャンプをおこなうには、優れた肉体の制御が必要になりますが、これらを担当するのは筋肉ではなく、脳でした。
つまりサルたちはより効率的なジャンプをおこなう過程で、脳の高度化も成し遂げていたのです。
ただこの場合の高度化した脳とは数学や文学にかかわるものではなく、巧みな筋肉の調整能力でした。
そしてこの巧みな筋肉の調整能力こそが、音楽の起源となったのです。
なぜなら、音楽において最も重要なのは、歌でも演奏でも、細かな調節能力だからです。
いかに歌詞やメロディーが優れていても、バランスの取れていない歌や演奏は騒音に聞こえてしまうかもしれません。
では実際の証拠を交えて、音楽のルーツとジャンプの関係をみていきましょう。
ジャンプの上手いサルほどリズミカルな鳴き声を発する
ジャンプの巧みさが音楽の起源である。
この仮説を実証するにあたり研究者たちは様々な50種を超えるサルの跳躍能力とき声の複雑さや音楽性(リズム性)を測定しました。
すると、非常に明白な結果が得られます。
ジャンプが巧みな種ほど、より鳴き声にリズム性(音楽性)と複雑さがあると判明します。
高度なジャンプを行うサルは高度な脳を持ち、鳴き声のバリエーションも多かったのです。
逆を言えば、精緻で技巧的な鳴き声を発することができる個体は、より高度なジャンプが可能であり、子孫を残しやすいことを異性に伝えることができ、生殖戦争でも有利に立てます。
この事実は、人間の音楽のルーツが、サル時代を通して獲得した鳴き声の複雑化の結果、継承されてきたことであると示しています。
音楽的能力のヒトへの継承
今回の研究により、進化による発声の複雑化の延長線上に音楽的能力があると示されました。
ジャンプを通して高められた高度な脳と細やかな筋肉の調節能力は、木から降りて二足歩行をするようになると、道具作りに転用され、より一層の磨きがかかるようになります。
そして道具の開発は楽器の開発につながり、音楽は社会的な絆を高めるツールとして利用されるように変化していきました。
もし人間の先祖が、細やかな筋肉の調節能力という概念が希薄なナマケモノのような生き物であったのなら、音楽は存在しなかったのかもしれませんね。
参考文献
Evolution of primate protomusicality via locomotion
提供元・ナゾロジー
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