現在のロボットはモーターや油圧を利用して関節を動かしていますが、人に近い動きをするロボットでは人工筋肉を使うことが想定されています。
人工筋肉というと、なんだか少しグロい生体部品を作ることばかり想像しますが、必ずしもそうなるとは限りません。
米国スタンフォード大学(Stanford University)の研究チームは、ロボットの人工筋肉として利用可能な新しい形状記憶ポリマーを提案しています。
形状記憶ポリマーとは、伸ばしたり変形させても熱や光によって元の形状に戻る素材のことです。
研究の詳細は、アメリカ化学会の学術誌『ACS Central Science』に9月8日付で掲載されています。
形状記憶ポリマーを使った人工筋肉
形状記憶ポリマーはゴムのような素材が、元の変形していない状態と、二次的に変形した状態を交互に繰り返すことができます。
このポリマーを引き伸ばすなどして変形させた場合、その分子変化がエネルギーとともに保持されます。
そして、熱や光が加えられると、蓄積されたエネルギーが放出され元に戻るのです。
しかし、これまでこうした素材では十分なエネルギーを蓄えることができなかったため、あまり大きな力を発揮させることはできませんでした。
もし素材に高いエネルギーを蓄えさせることできれば、元に戻ろうとするときに大量のエネルギーを放出させてさまざまな仕事をさせることが可能になります。
そこで今回の研究チームは、もっと高いエネルギーが蓄えられる、新しいタイプの形状記憶ポリマーを開発しようと考えました。
そして誕生したのが、今回報告されている新素材です。
この新形状記憶ポリマーは、最初、ポリマー鎖が無秩序に絡み合って乱れた状態になっています。
これを伸ばした場合、鎖は綺麗に整列した分子構造へと変化していき、強く伸長した状態で安定します。
これを加熱すると、結合が切れてポリマーが収縮し、最初の無秩序な状態へ戻ります。
実験では、このポリマーはもとの長さの5倍まで伸ばすことができ、17.9J/g(1グラム当たり17.9ジュール)のエネルギー密度を蓄えることができました。
この説明では、どの程度のエネルギーが蓄えられたのか分かりづらいですが、このエネルギーを利用すると、加熱することで自重の5000倍の物体を持ち上げることができるといいます。
これはこれまでの形状記憶ポリマーのエネルギーをほぼ6倍近くも更新させているそうです。
ここで研究チームは、このポリマーを木製のマネキンの上腕と下腕をつなぐ関節部分に取り付けて見ました。
すると引き伸ばしたポリマーに熱を加えることで、人形は肘を曲げることができたのです。
これはこの形状記憶ポリマーが、人工筋肉としても利用できる可能性があることを示しています。
ちなみに、デッサン用の小さいマネキンみたいなものを想像している人がいるかも知れませんが、このマネキンは人間サイズです。
しかもこの素材は、これまでにないエネルギー密度を持つことに加えて、非常に安価で簡単に作れるという特徴があります。
研究者によると、原材料費は450グラム(1ポンド)あたり約1200円(11ドル)で済むそうです。
まだ具体的な実用段階の話ではないにせよ、非常に展望のある新素材が誕生したようです。
参考文献
High-energy shape memory polymer could someday help robots flex their muscles
元論文
High Energy Density Shape Memory Polymers Using Strain-Induced Supramolecular Nanostructures
提供元・ナゾロジー
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