現在の火星は荒野しかありませんが、かつては地球と同じように大量の水を持つ惑星だったことがわかっています。

火星の水はなぜ失われてしまったのか? 科学者たちはさまざまな説を提案してきました。

しかし、ワシントン大学セントルイス(WUSTL)の研究チームは、その根本的な理由を示唆する新しい研究を発表しました。

それは、そもそも火星は大量の水を保持するには小さすぎたという可能性です。

この場合、なにか不幸な要因があったわけではなく、水を失うことは火星にとって最初から定められた運命だったことになります。

研究の詳細は、今週、科学雑誌『全米科学アカデミー紀要:PNAS』で発表されています。

目次

  1. 火星の運命は最初から決まっていた
  2. 環境が維持できる岩石惑星の限界

火星の運命は最初から決まっていた

火星にはかつて大量の水がありました。

火星探査機の調査では、長期間水に浸かっていたことを示す鉱石や、洪水により削られた谷の痕跡など、さまざまな証拠が発見されていて、もはや疑いようのない事実です。

火星が水を失うのは「最初から定められた運命」だった
(画像=星マンガラ渓谷に残るかつての洪水の痕跡 / Credit:NASA/JPL/Arizona State University image、『ナゾロジー』より引用)

しかし、現在火星の表面に水は存在していません。

火星の水はなぜ失われてしまったのか? そしてどこへいってしまったのか?

これは火星を研究する際の重要なテーマとなっていて、火星磁場の弱体化による大気の喪失などを含む、さまざまな可能性が提案されています。

しかし、今回の研究を発表したワシントン大学地球惑星科学専攻助教授クン・ワン(Kun Wang)氏は、火星が地球と大きく異る歴史を歩んだ原因について、もっと根本的な理由を語っています。

「生命が存在できるような十分な水を保持できる岩石惑星のサイズには、おそらくしきい値があります。

そして、火星は根本的にその質量が足りていなかったのです」

つまり、火星の運命は最初からどうあがいても水を失うと決まっていたのだ、とワン氏は主張するのです。

環境が維持できる岩石惑星の限界

火星が水を失うのは「最初から定められた運命」だった
(画像=火星と地球の比較 / Credit:国立天文台,火星ってどんな惑星なの?、『ナゾロジー』より引用)

火星の直径は地球のわずか53%程度(ほぼ半分)で、その質量は地球のわずか10%程度しかありません。

ワン氏は火星の重力が、そもそも水を含めた揮発性物質を保持しておくために足りていないと考えているのです。

そこで研究チームは、カリウム(K)元素の安定同位体を使用して、いくつかの天体の揮発性元素の存在量を推定しました。

研究チームにとってカリウムは適度に揮発性のある元素であり、衝撃などで気化しないものの、水のようなより揮発性の高い元素が惑星上にどの程度存在するか推定するトレーサー(追跡用の物質)として利用できるのです。

チームはまず、火星からやってきた隕石20個中に含まれるカリウム同位体組成を研究しました。

この火星隕石の年代は数億年から40億年で、火星の揮発性物質がどのように変化したかの歴史を記録しています。

そして、次に、これらの組成が質量の異なる3つの太陽系天体、地球・月・小惑星ベスタとどう異なるか比較したのです。

すると、火星は形成中に地球より多くの揮発性物質を失っていましたが、火星よりかなり小さい月やベスタよりも多く保持できていることが示されたのです。

これは揮発性物質の存在量が、惑星の重力と相関関係を持つことを示す新しい発見です。

これまで、水などの揮発性の物質がどの程度惑星に存在するかは主星(太陽)との距離で決定されていました。

近すぎればその熱により蒸発してしまい、遠すぎれば凍りついてしまいます。

この関係のちょうどよい距離をハビタブルゾーン(居住可能性領域)と呼び、この領域にある惑星は生命の存在する可能性がある候補と捉えられていたのです。

しかし、ここにさらに惑星の質量による分類も可能になるかもしれないのです。

遠い惑星でも、トランジット(太陽との食)を利用すると質量を推定することができるため、これは重要な指標になります。

火星が水を失うのは「最初から定められた運命」だった
(画像=40億年前の火星のアーティストイメージ。この時代の火星は水に覆われていた。 / Credit:ESO/M. Kornmesser、『ナゾロジー』より引用)

火星は、なにか不幸な要因が合わさって水を失ったのではなく、そもそも形成時に水をもっていてもそれを保持することはできない惑星だった可能性が高いようです。

火星が荒野となってしまうのは、はじめから運命づけられていたことだったと言われると、少しさびしい感じもします。

今回の発見は、火星にどの程度の水が存在したかなどの推定にも役立てられる可能性があります。


参考文献 There Could Be an Extremely Simple Reason Why Mars Isn’t as Suitable For Life

Mars habitability limited by its small size, isotope study suggests

元論文 Potassium isotope composition of Mars reveals a mechanism of planetary volatile retention


提供元・ナゾロジー

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