「しっぽ」の有る無しを決める遺伝子が発見されました。

ニューヨーク大学の研究者たちによれば、人間から尻尾を消した要因となる遺伝子(TBXT)を特定したとのこと。

尻尾がない人類やチンパンジーなどの類人猿は、この遺伝子に小さな「DNAの断片」が異物として入り込んでおり、遺伝子の働きが大きく変化してしまったようです。

また研究者たちが抽出した「DNAの断片」を尻尾があるマウスの遺伝子に入れたところ、マウスの尻尾も消失させることに成功しました。

人類の失われた尻尾にかかわる大きな謎が、最新科学で解き明かされようとしています。

研究内容の詳細は、9月16日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されています。

目次

  1. 「しっぽ」のないヒトや類人猿には共通の遺伝子変異が起きていた
  2. 「しっぽ遺伝子」を人間型にするとマウスの尻尾が消えた
  3. 「しっぽ」が失われた理由

「しっぽ」のないヒトや類人猿には共通の遺伝子変異が起きていた

人間から「しっぽを消した遺伝子」を発見! マウスの尾を消すことにも成功
(画像=「しっぽ」のないヒトや類人猿には共通の遺伝子変異が起きていた / Credit:Bo Xia et al (2021) . bioRxiv . The genetic basis of tail-loss evolution in humans and apes、『ナゾロジー』より引用)

現在地球上に生きる霊長類は、外見によって大きく2種類にわけることができます。

1つは尻尾を持つ多くのサルたち、そしてもう1つは人間やチンパンジーなどの「しっぽのないサル」です。

人間やチンパンジーなどの類人猿の尻尾は退化しており、骨盤に付着した尾てい骨になごりを残すのみになっています。

しかし奇妙なことに尻尾の喪失が、どのようにして、なぜ起きたのかは、いままで謎のままでした。

そこでニューヨーク大学の研究者たちは、6種類の尻尾のない類人猿のDNAを9種類の尻尾のあるサルのDNAと比較し、両グループ間の違いをさがしました。

結果、尻尾のない類人猿は「TBXT(ブラキュリー)」と呼ばれる遺伝子に共通の変異が起きていることが確認されます。

TBXT遺伝子はマウスなどの脊椎動物において、尻尾や背骨の形成にかかわる重要な遺伝子として古くから(1923年ごろから)知られている有名な遺伝子です。

分析の結果、尻尾のない類人猿はどの種も、TBXT遺伝子の中央部に300個ほどの遺伝子文字からなる同じ「DNA断片(Alu要素)」が、同じ位置に混入していたと判明します。

(※Alu要素とは自己複製のみを目的とした非ウイルス・非生命の配列情報のみに依存する存在(トランスポゾンの一種)として知られており、生命の突然変異を促す要因や遺伝子疾患の原因とされています)

同様の「DNA断片」の挿入は、人間のTBXT遺伝子の同じ場所にも起きていました。

そのため研究者たちは、この紛れ込んだ「DNA断片」のせいでTBXT遺伝子の機能が変化して、尻尾の喪失につながったと考えました。

そしてすぐに、仮説を証明する実験にとりかかります。

「しっぽ遺伝子」を人間型にするとマウスの尻尾が消えた

人間から「しっぽを消した遺伝子」を発見! マウスの尾を消すことにも成功
(画像=人間から「しっぽ」を消した遺伝子を発見! 同じ遺伝子の変異でマウスの尻尾も消失 / Credit:Bo Xia et al (2021) . bioRxiv . The genetic basis of tail-loss evolution in humans and apes、『ナゾロジー』より引用)

尻尾の喪失がTBXT遺伝子に混入した「DNA断片(Alu要素)」が原因なのか?

謎を確かめる方法は理論上、2つ存在します。

1つ目は人間や類人猿など尻尾が失われている動物から、問題となった「DNA断片」の影響を取り除き、尻尾アリの型に再編成して、再びはえてくるかを調べる方法。

2つ目はマウスなど尻尾のある動物に、問題となる「DNA断片」を新たに挿入して(人間と同じ型にして)、尻尾が消えるかを確かめる方法です。

研究者たちは諸事情を考慮し、2つ目のマウスから尻尾を消すを実験を行うことにしました。

すると上の図のように、問題となる「DNA断片」をTBXT遺伝子に挿入されたマウスからは、尻尾が消失することが判明します。

同じ仕組みが人間や類人猿にも当てはまる場合「DNA断片」を削除すれば尻尾がはえてくる可能性があります。

「しっぽ」が失われた理由

人間から「しっぽを消した遺伝子」を発見! マウスの尾を消すことにも成功
(画像=「しっぽ遺伝子」を人間型にするとマウスの尻尾が消えた / Credit:Bo Xia et al (2021) . bioRxiv . The genetic basis of tail-loss evolution in humans and apes、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、TBXT遺伝子の特定の位置に、特定のDNA断片(Alu要素)が入り込んだことが、尻尾の喪失につながるという仕組みが示されました。

しかし、人類の祖先が尻尾を失った仕組みは示されたものの、尻尾を失った理由については謎のままです。

人類の祖先が尻尾を失ったのは2500万年前であると考えられますが、そのころの祖先たちは樹上で木の実を食べながら生活していました。

つまりアウストラロピテクスなどの猿人が2足歩行を始める遥か以前から、尻尾は失われており、よく言われる2足歩行との関連性は薄いかもしれません。

樹上生活を行う上で、尻尾はバランスととったり腕の代用として枝を掴んだりするなど、非常に有用なツールであり、失うデメリットは多いと言えるでしょう。

しかし結果的に、尻尾を失った先祖たちは他のサルたちを押しのけて繫栄し、人類や類人猿など、巨大な脳を持つグループの誕生につながりました。

尻尾に向けるはずだった神経リソースを代わりに脳に流し込めるようになったとも考えることができますが、これは想像の域を出ません。

尻尾の喪失と脳の巨大化の間にどんな関係があるのか、続く研究に期待したいところです。

参考文献
How Humans Lost Their Tails

元論文
The genetic basis of tail-loss evolution in humans and apes

提供元・ナゾロジー

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