Point
・発達の初期段階において他人の怯えに対する反応が強い子どもほど、成長後の困っている他人に対して「利他的行動」を取る傾向がある
・生後7ヶ月時点における他者の怯えに対する反応を見れば、幼児期にどのような利他的行動を取るかが予測できるが、笑顔や怒り顔では分からない
・他者の怯えに対する反応と利他的行動は、どちらも背外側前頭前野が司っていると考えられる

将来「いい人になるかどうか」は、わずか生後7ヶ月で決まってしまうかもしれません。

人間ほど複雑な「利他的行動」を共同体の中で取っている動物はいないでしょう。「利他的行動」は人間を人間たらしめている本質ということもできます。ところが世の中には、聖人のような人もいれば反社会的行動で社会を恐怖に陥れるサイコパスも存在し、利他的行動の傾向は人それぞれです。

では、この違いは一体どこから来るのでしょうか?

最近の研究で、困っている他人に対して人が示す反応は、発達の初期段階における「他人の怯え」に対する反応と連動していることが分かりました。研究を行ったのはマックス・プランク研究所のトビアス・グロスマン氏ら。ヴァージニア大学と共同で、オンライン雑誌PLOS Biologyに論文を発表しました。

The neurodevelopmental precursors of altruistic behavior in infancy

「助けを必要としている他者に、自己の損失を顧みずに手を差し伸べる」という利他的行動は、人間の助け合い気質の本質的機能の一つで、個体発生に深く根付いています。人の「怯え顔」に対する反応と結びつけた過去の研究では、怯え顔に対して敏感に反応する人ほど向社会的行動を取る傾向が強いこと、そしてこの傾向が就学前の子どもにも見られることが推測されてきました。発達初期段階における怯え顔への反応とその変動性の調査は、利他的行動の前兆の鍵になると、グロスマン氏らは考えました。

研究チームは、生後7ヶ月の子どもが他者の怯え顔に対して示す反応が、生後14ヶ月時点での利他的行動を予言するかどうかを調べるため、子どもたちの瞳の動きを追跡したデータを集めました。データを分析した結果、笑顔や怒り顔ではなく、怯え顔に対する赤ちゃんの反応の程度が、成長後の利他的行動を予言することが明らかになりました。

特に、生後7ヶ月時点で、怯え顔に対して最初に注目する時間が長く、かつ注目後に長い時間注意を逸らした子どものほうが、生後14ヶ月時点での向社会的行動を示す傾向が強く見られました。これは、利他的な子どものほうが共感性が高いため、注意を逸らすことによって怯え顔を見たときの自身の感情を制御するためと思われます。さらに、怯え顔に対する子どもの注意バイアスと利他的行動はどちらも、NIRS脳計測装置が計測した脳の背外側前頭前野 (dlPFC)の反応として現れました。

「利他性」はわずか生後7ヶ月で生まれる。将来いい人になるのは「怯え顔」に敏感な赤ちゃん
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

「利他的行動の変動性は、困っている人を見た時の反応と注意制御に関係する脳処理とで、発達の初期段階から結びついています。他者の怯えに対する反応を、利他的行動に対する初期の前兆として位置付けるという意味で、今回の発見は人間の利他性の出現を理解するのに大変有益です」とグロスマン氏は語っています。言い換えれば、赤ちゃんの時の他者の怯えに対して示す反応を、将来の向社会的行動の予測因子として用いることができそうです。

助け合いを促す社会的能力の前兆とも言えるスキルが、生まれてからわずか7ヶ月の赤ちゃんにも備わっているとはびっくりです。研究チームは、利他性の出現のさらなる理解のため、より力学的側面から研究を進めたいと考えています。グロスマン氏らの今後の研究に期待しましょう。

via: eurekalert, journals.plos/ translated & text by まりえってぃ

提供元・ナゾロジー

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