はじめてアンティーク時計を購入しようとお考えの人におすすめしたいのが、“定番”と呼ばれるモデルだ。常道ではあるが、ことアンティークについては現行品以上に定番を選ぶメリットは大きいといえる。
そのメリットのひとつが“高い信頼性”だ。
アンティークはやはり古いものだけに、ある程度の不具合が出るものだが、今日、定番と呼ばれるものは、ムーヴメントにせよ外装にせよ、しっかりと作り込まれているモデルが多いため、それが少ないのである。特にアンティーク時計の扱いに慣れてないうちは、こうしたモデルを選んだほうが安心であることはいうまでもない。そこでアンティーク時計で定番と呼ばれるモデルを取り上げ、その魅力を探る本連載。最終回は、ロンジンの手巻きモデルを紹介したい。
定番-其の5/ロンジン 手巻きモデル
20世紀半ばまでのロンジンは、コンセプトを導入した製品開発にそれほど積極的ではなかった。簡潔に言うと、モデル名が立ったコレクション展開をほとんどしてこなかったのである。実際、同社から腕時計で明確なコンセプトのもと開発されたコレクションが登場するのは、1954年のコンクエスト以降である。
だからといって、それまでに目立ったモデルがなかったのかというと、決してそんなことはない。むしろ50年以前がオールドロンジンにおける黄金期とされており、良作は数多くある。なかでも愛好家をはじめとして高い評価を得ているのが、主に30年代から40年代にかけて展開された“手巻き”モデルだ。厳密に言うと、1コレクションとして確立されたものではないため“定番”として括りにくいが、価格が手頃な個体も結構あり、非常におすすめなので今回取り上げた。
1920年代半ば以降、ロンジンでは生産体制の見直しを図っている。具体的には生産性の改善である。例えば、ムーヴメントでは、それまで一般的だった分割された受けを一体化するなど、明らかに生産性を意識したと思われる懐中用ムーヴメントが登場しているのである。そのひとつが18.68系(27〜28年頃)であり、これを腕時計用として再設計したのが29年に登場したCal.12.68である。

勘違いしないでほしいのは、確かに12.68の設計は量産を意識したものではあったが、一方で肝心の部品の作りにはまったく手を抜かなかったという点だ。例えば耐久性を考慮して厚く抜いた受けには、しっかりと面取りがなされており、かつ表面にも丁寧な仕上げが施され、見た目にも高級かつ重厚な作りとなっている。またヒゲゼンマイが平ヒゲに置き換えられる(最初期は巻き上げヒゲ)など、コストダウンを図ったと思われるところもあるが、それでも精度や信頼性は決して低くなかったのである。
さらにロンジンではこの12.68の設計を再転用することで、サイズ違いの腕時計ムーヴメントを展開。多彩なバリエーションをもつにいたったのである。

そのため、オールドロンジンの手巻きムーヴメントの種類が非常に多い。加えてアール・デコを感じさせるものから、軍用然(実際軍用時計として採用された実績もある)としたものまで、デザインも幅広く、選択肢が多いという点も大きな魅力と言えるだろう。価格は30万円台から狙えることもあるが、ブラック文字盤仕様や通称“トレタケ”と呼ばれる防水ケース仕様などは人気が高く、相場は50万円以上となっている。

文◎堀内大輔/写真◎笠井 修
提供元・Watch LIFE NEWS
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