私たちは現実の存在ですか?
もしそうだとするなら、何がそれを証明しますか?
私たちが、何者かのコンピュータ内の「シミュレートされた存在」である可能性はないでしょうか?
このような仮説は「シミュレーション仮説」と呼ばれています。
Vsauce3 YouTubeチャンネルのホストであるジェイク・ローパー氏は、彼のチャンネルで「シミュレーション仮説」について解説。ある条件を満たせば「意識も文明もシミュレーションは可能だ」と述べています。
以下で説明する「5つの仮定」が立証できる場合、わたしたちは「シミュレーション」なのかもしれません。
目次
私たちはシミュレートされているのかも?
私たちの「脳」や視覚などの「感覚」には限界があるので、宇宙の本質をそのまま経験することはできません。
ですから、それらを学ぶために、「道具」や「概念」を活用しています。
例えば、私たちは実際に非常に遠く離れた宇宙を「目」で確認することができません。最新の望遠鏡を使っても、銀河系の詳細な仕組みを直接確認できないのです。
そんな時に役立ってきたのが「シミュレーション」です。
私たちが観測できる範囲の宇宙や、自然法則の情報を組み合わせて、コンピュータ内で仮想空間を作りあげるのです。
それらをコンピュータ内で作動させることで、動きや仕組みを予測することができます。
これがあれば、もしかしたら将来、宇宙全体をシミュレートすることも可能かもしれません。
では、もし宇宙全体のシミュレーションが可能なのであれば、「既にそうなっている」とは考えられないでしょうか?
私たちが「シミュレートする側」なのではなく、「シミュレートされる側である」と考えることができないでしょうか?
私たちは、何者かがコンピューターでシミュレートした世界の住人なのかもしれないのです。
ローパー氏は「そう仮定するためには、いくつか条件ある」と答えています。
もちろん仮定の話なので、話半分で、あくまで仮定の話として進めていきましょう。
ローパー氏は、オクスフォード大学教授であるニック・ボストロム氏の「シミュレーション論争」の改変されたバージョンに基づいて、5つの仮定を用意しました。
もし、それらの仮定が「真」であるなら、私たちはシミュレーションの中で生きていることになります。
仮定1:意識のシミュレーションは可能
シミュレーション内に人間を作りだすためには、人間の「意識」を作る必要があるでしょう。
脳はかなり複雑です。
仮に、シナプス同士の1つの相互作用を1つの演算処理と数えてみましょう。
人間の脳は10の17乗、つまり10京に達する演算を毎秒行ないます。
そして、人間の意識を1秒シミュレートするのに、10の20乗の演算が必要だとします。
「文明」をシミュレートしたい場合、1人の意識では不十分です。いくつかの時代に存在するすべての人間の意識を再現する必要があるでしょう。
ですから、平均寿命50年の人間を2000億人シミュレートする必要があると仮定しましょう。
1年は3000万秒ですから、「人間社会」をシミュレートするには、
毎秒「3000万×50×2000憶×(10の20乗)」
分かりやすくすると、
毎秒「100万×1兆×1兆×1兆」の演算ができるコンピューターが必要になります。
これは観測可能な宇宙の星の数よりも多い演算です。
もしこんなスーパーコンピューターがあれば、シミュレーションは可能になります。
仮定2:技術革新が止まらない
もし、技術革新がこれまでと同じように続くと仮定したら、いつの日か、無制限のコンピュータパワーを持つ、銀河を股に掛けた文明が存在するようになるでしょう。
もしかしたら、既にそんな文明があるかもしれませんね。そんな文明は、いわば「神みたいな存在」ともいえるでしょう。
毎秒100万×1兆×1兆×1兆の演算は、普通のコンピュータには難しい仕事ですが、これを処理できるコンピュータの構想があります。
それが「マトリョーシカ・ブレイン」です。
これは理論上の巨大構造物です。
恒星を複数の層で覆い、中心の恒星からエネルギーを引き出し計算するというもの。
この規模のコンピューターは、同時に数百万とは言わないまでも、数千の人間をシミュレートするのに十分のパワーでしょう。
もし、量子コンピュータが完成するなら、もっと小型化して、大都市か、小さな建物でのシミュレーションが可能になるかもしれません。
仮定3:進歩した文明は自滅しない
進歩した文明がいずれ自滅してしまうなら、大規模のシミュレーションは不可能です。
文明は「グレート・フィルター」を超えてこそ生き続けることができます。
「グレート・フィルター」とは、生命が克服しなければいけない核戦争、小惑星や気候変動やブラックホール発生のような障害のことです。
私たちがエイリアンの文明を発見できないのは、彼らが「グレート・フィルター」を超えることができず、既に滅んでしまったからかもしれません。
もし生命が自滅から脱却できるなら、高度発展してゆき、大規模なシミュレーションにもたどり着くでしょう。
仮定4:高度に発達した文明はシミュレーションを欲する
人類が今とは比較にならないほどの知識や能力を得て、文明が高度に発展したとします。
この時の人類は「ポストヒューマン」と呼ばれます。
当然ですが、ポストヒューマンは私たちが理解できる存在ではないでしょう。私たちにとって「神に等しい存在が何を欲するのか」分かるなどと考えるのは傲慢です。
例えば、地上で最も賢いアリがいるとします。
そのアリは人間が何をしているかに興味があるので、私たちは説明します。
しかし、アリには理解できません。
同じように、ポストヒューマンからすれば私たちはアリ同然です。
「ポストヒューマンはきっとシミュレーションを欲するだろう」という考えは、人間視点であり、彼らにとっては馬鹿げたことかもしれません。
ですから、「高度に発展した文明がシミュレーションを欲する」という仮定が「真」であり、なおかつ、仮定1,2,3も「真」であるなら、私たちがシミュレーションだという可能性もゼロではありません。
仮定5:もし、たくさんのシミュレーションがあるなら、私たちはおそらく、そのシミュレーションうちの1つである
シミュレートされた文明が存在するなら、そのシミュレーション文明は1つではなく複数でしょう。
ポストヒューマンが無制限の計算機資源を持っていると仮定すると、彼らはシミュレーションを何百万、数十億と実行するはずです。
シミュレートされた宇宙が何十億もあるなら、一兆×一兆のシミュレートされた意識が存在するでしょう。
これは、今までに存在した「意識をもつ存在」の大半が、シミュレーションであることを示しています。
ですから、生身の意識1つにつき十兆のシミュレートされた意識が存在するかもしれないのです。
この仮説に基づき、ローパー氏は次のように述べています。
「自分がシミュレーションかどうかを知る方法はないので、この場合、あなたが999999999999・・・999999のシミュレートされた意識の1つである可能性は、かなり高いだろう」
「だから、あなたが現実だと考えるものは、まったく現実ではないかもしれない。あなたはシミュレーションかもしれない」
さて、シミュレーション仮説を立証するための5つの仮定を紹介しました。
これらの仮定すべては、すぐにはテストできない多くの仮定に基づいています。
ですから、今、シミュレーション仮説を立証しようとしたり、否定しようと躍起になったりする必要はありません。
仮に私たちがシミュレーションだったとしても、自分の存在が、恐ろしくて奇妙なものになるわけではありません。
私たちは、良き人生を生き、良き時間を過ごすことを望んでいます。
そして、私たちが実際にコンピューターのシミュレーションなら、誰も電源ケーブルにつまずいたりしませんように。
参考文献
Kurzgesagt – In a Nutshell
提供元・ナゾロジー
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