巷でよく「モーツァルトの曲を聴くと頭が良くなる」と言われますが、その真偽は定かでありません。
しかし今回、ダートマス大学(Dartmouth College・米)の医学研究チームにより、モーツァルトの曲にてんかん症状を緩和できる楽曲が存在することが明らかになりました。
チームによると、その曲を薬物抵抗性てんかん患者に30秒以上聴かせると、てんかんに関する脳内の電気活動が大幅に減少したとのこと。
一体、何という曲なのでしょうか。
研究は、9月16日付けで学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。
30秒聴くだけで、てんかん症状が和らぐ?
その曲は、1781年作曲の「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 (375a)」です。(以下、K.448と表記)
当時25歳だったモーツァルトは、ヨーゼファ・バルバラ・アウエルンハンマーという優れた女性ピアニストの弟子と二人で演奏するためにこの曲を作りました。
記録では、同年11月23日に、彼女の家で開かれたコンサートで初演されています。
モーツァルトは彼女の才能を高く買っていましたが、その一方で、彼に好意を寄せる彼女の厚かましい態度には嫌気が差していたそう。
同年8月22日付けのモーツァルトの手紙には、こう書かれています。
「もし画家が悪魔をありのままに描こうと思ったら、彼女の顔を頼りにするにちがいありません。(中略)彼女は田舎娘のようにデブで、汗っかきで、吐き気を催すほどです」
相当な言いようではありますが、彼女との連弾のために作ったK.448は音楽史に残る名曲で、一度は聴いたことがあるかもしれません。
それがこちら。
これまでの研究でも、K.448を聴くことで、てんかん症状を緩和できることが示唆されていました。
しかし、K.448が与える影響や、その理由までは明らかにされていません。
そこで研究チームは、薬物抵抗性のてんかん患者16名(成人男女)を対象に、K448を含む15秒または90秒の音楽クリップを聴かせ、脳内の電気活動を脳波で測定しました。
その結果,K448を30秒以上聴いた場合、てんかんに関連する電気活動のスパイク頻度が大幅に減少することが示されたのです。
実験では、脳内のスパイク頻度が、平均66.5%も減少していました。
さらに、この減少は、感情をコントロールする脳領域として知られる「前頭前皮質」で最も大きいことが分かりました。
また、K448の終盤の繰り返し部分を聞いているとき、患者の前頭前皮質で「シータ波」と呼ばれる脳波の増加が確認されています。
シータ波は、神経細胞の集団が同期活動をすることで生成される脳波です。
深いリラックス状態にあるときに観察されており、別に「まどろみ波」とも呼ばれます。
シータ波は、音楽を聞いている際のポジティブな情動反応と関係していると言われています。
そこからチームは「K448を聴くことで、その情動反応と関連する脳内ネットワークが活性化されているのではないか」と考えます。
そして、これらネットワークの活性化が、てんかんの電気活動のスパイク減少に寄与しているというわけです。
このメカニズムについてはまだ仮説段階ですが、K448の効果は確かなため、今後、てんかん患者の新たな治療法として採用されるかもしれません。
参考文献
Therapeutic potential of Mozart for medication-resistant epilepsy
元論文
Musical components important for the Mozart K448 effect in epilepsy
提供元・ナゾロジー
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