現代のように高度に電子化された社会では、雷による影響(停電・交通機関の停止など)が大きくなります。
ところがスーパーコンピュータを用いた天気予報でも、未だに雷頻度を予測できていません。
そこで、北海道大学大学院理学研究院の佐藤 陽祐(さとう ようすけ)特任准教ら研究チームは、スーパーコンピュータ「富岳」と独自開発した気象モデルを用いて、豪雨における雷頻度の違いを明らかにしました。
ハイレベルなスーパーコンピュータを使うことで雷頻度の予測が可能になったのです。
研究の詳細は、8月31日付の科学誌『Atmospheric Science Letter』に掲載されました。
同じ豪雨でも雷頻度に違いがあるのはなぜか?スパコン「富岳」で解明!
天気予報で見かける「雷注意報・警報」は、雷を直接計算した結果ではありません。
一部の観測や計算をもとにして、統計的・経験的に雷の可能性を見積もっているだけなのです。
そのため雷頻度の違いを事例ごとに伝えることはできません。
例えば、2017年の九州北部豪雨と2018年の西日本豪雨はともに梅雨前線によってもたらされた豪雨でしたが、雷頻度には大きな違いがありました。
前者では高頻度で雷が鳴っていましたが、後者ではほとんど観測されなかったのです。
しかし、なぜこのような違いが生じるのか、誰も分かっていませんでした。

そこで研究チームは、雷頻度の違いを明らかにするため、雷を直接計算できる「気象雷モデル」を開発しました。
しかし非常に高い計算能力が要求されるため、従来のスーパーコンピュータでは九州北部豪雨や西日本豪雨を再現できません。
そこでチームは、世界スパコンランキングの4部門で1位を獲得したスーパーコンピュータ「富岳」を使用することにしました。
雷頻度の違いは積乱雲の高さから生じていた

富岳によるシミュレーションの結果、九州北部豪雨と西日本豪雨を再現することに成功しました。

九州北部豪雨は背の高い雲によってもたらされましたが、その中では電荷を発生させるあられが多く存在しており、高いところまで広範囲にわたって分布していました。
その結果、雲内部の電荷が大きくなりやすく、雷が発生しやすかったようです。
対照的に、西日本豪雨は背の低い雲によってもたらされており、内部のあられは量が少なく、高い位置に存在できません。
結果として雲内部の電荷は大きくならず、雷も発生しにくかったのです。
さて今回の研究により、気象雷モデルを使うなら、雷頻度の予測が可能だと分かりました。
今後、スーパーコンピュータの能力が全体的に向上していくなら、天気予報に雷頻度の情報を加えることができ、雷被害の低減に貢献するでしょう。
提供元・ナゾロジー
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