動物のミイラは、古代エジプトの慣習を知る貴重な資料となりますが、ミイラを傷つけずに調査するのはとても困難です。
そのために用いられるX線のCTスキャンは2次元が主流であり、立体的な形状が調べられません。医療用は3次元ですが、解像度の点で劣ります。
そこで英・スウォンジー大学は、医療用CTスキャンの100倍の解像度を誇るマイクロCTスキャンを使ってこの問題を解決しました。
今回、調査対象となったのは、ネコ・鳥・ヘビのミイラで、いずれも2000年以上前に作られたものです。
マイクロCTのおかげで、動物たちの死因や飼育環境などが明らかにされています。
「ネコ」は首を折られていた⁈
CTスキャンの結果、ネコのミイラは野生ではなく、飼育されていた個体であるようです。
死んだときは、まだ生後5ヶ月未満で、小さなアゴの中に生える前の歯が見られました。また、首の骨が折れており、初めからミイラ化するために飼育された動物によく見られる特徴とのこと。
ただ、ミイラ化するために首の骨を折ったのか、処理の中で姿勢を整える際に折れたものなのかは分かっていません。
「鳥」は死因が不明
鳥のミイラについては、種類や死因の特定が難しかったようです。
骨の分析によると、「チョウゲンボウ」というハヤブサ科の鳥類の可能性が最も高いそう。
一方で、首を絞められた痕も骨折の痕も見られず、自然に死んだ個体をミイラにしたのかもしれません。
「ヘビ」は劣悪な環境に置かれていた
対照的に、ヘビのミイラは、かなり多くの情報が明らかになっています。
この個体は「アスプコブラ(エジプトコブラ)」の幼体と判明しており、頭蓋骨が広範囲にわたって破損していて、椎骨の関節が外れていました。このことから、ムチのように地面に叩きつけられて絶命したとみられます。
また、牙が一本も見当たらなかったのですが、これはアスプコブラが毒を持っているので、ミイラ化に当たってすべて抜かれたのでしょう。
それから、腎臓に石灰化の痕が見られ、腎臓病を発症していたことが分かります。これは水不足で劣悪な環境で飼育されるヘビに生じる特徴で、現代のヘビにもよく見られます。
「動物ミイラ」は古代エジプトの一大産業だった?
古代エジプト人は、スカラベからイヌ、ネコ、鳥、ワニに至るまで、ありとあらゆる動物をミイラにしてきました。
動物ミイラの用途は多岐にわたり、飼い主と一緒に埋葬されるペットもいれば、死後の世界での食料として供えられるもの、あるいは、生前から崇拝され神聖視された幸運な動物もいます。
しかし、動物ミイラの大半は、神々に捧げるための奉納物でした。
そのために、野生の動物を捕獲し、ミイラ化するまで囲いの中で飼育された、いわゆる「ミイラ農場」なるものが存在した証拠もあります。専門家によると、動物ミイラは一商品として販売され、神に捧げられたそうです。
今回調査されたネコやヘビは、まさにミイラ農場で飼われていた個体であり、鶏を絞めるように処理されたのかもしれません。
研究の詳細は、8月20日付けで「Scientific Reports」に掲載されています。
Evidence of diet, deification, and death within ancient Egyptian mummified animals
reference: sciencealert, livescience
提供元・ナゾロジー
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