肥満の原因が食べ過ぎなら、食べ過ぎの原因は何でしょうか?

9月13日にハーバード大学の研究者たちにより『American Journal of Clinical Nutrition』に掲載された論文によれば、吸収が良すぎる食品が飢えの錯覚を引き起こし、食べ過ぎにつながっているとのこと。

加工食品のように吸収が良すぎる食べ物をとると、生きるために必要なエネルギーが途絶え、脳が飢えていると錯覚してしまうようです。

一見するとトンデモ説に思えますが、論文が掲載された『American Journal of Clinical Nutrition』は1952年に創刊された臨床栄養学の分野における権威ある科学誌です。

しかしいったいどうして吸収が良い食品を食べると、飢えてしまうのでしょうか?

目次

  1. エネルギー計算をもとにしたダイエット法には大きな穴があった
  2. エネルギーの取り込みに忙殺された細胞が飢えの原因
  3. 食べる量より食べるモノが大事

エネルギー計算をもとにしたダイエット法には大きな穴があった

吸収が良い加工食品は「飢えを錯覚させ肥満を招く」と明らかに
(画像=エネルギー計算をもとにしたダイエット法には大きな穴があった / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

「食べるから太る」

「食べなければ太らない」

現代のダイエット理論では、上記のような、取り込むカロリーと使うカロリーのエネルギー収支が何よりも重要視されます。

生物も物理学的なエネルギー法則に従って生きているため、エネルギー収支さえ守っていれば誰でもやせられるハズだからです。

しかしハーバード大学のルートヴィヒ氏は、この基本的な考えに疑問を持っていました。

持続的に「食べ過ぎ」ていれば太るのは間違いないですが、既存の理論では「食べ過ぎ」を起こしている要因は「個人の問題」「食文化の問題」「幼少期からの習慣」といったあいまいな言葉で済まされており、科学的な解明が進んでいませんでした。

そこでルートヴィヒ氏らは、細胞レベルのエネルギー代謝を元にダイエット理論を組みなおしました。

結果、「食べ過ぎ」は細胞の飢餓が原因で起きているとの結論に至りました。

エネルギーの取り込みに忙殺された細胞が飢えの原因

吸収が良い加工食品は「飢えを錯覚させ肥満を招く」と明らかに
(画像=エネルギーの取り込みに忙殺された細胞が飢えの原因 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

私たち人間はゲームのキャラクターのように、食べ物を即座にエネルギーに変えることはできません。

私たちが生存や運動のために使用するエネルギーは、細胞がエネルギーを取り込んだ後に、徐々に放出される分で補われています。

しかしルートヴィヒ氏らが調査したところ、吸収が良すぎる加工食品などを食べた場合、細胞はエネルギーの取り込みに忙殺され、エネルギーの放出が一時的にできなくなってことが判明します。

そのため、食後まもない時間帯の血中に含まれる総エネルギー量が、空腹時よりも低くなるという逆転現象が発じているケースもありました。

そしてエネルギーの放出がなければ、脳は飢餓に陥ったと錯覚し、さらなる食品への渇望と「食べ過ぎ」が発生していたのです。

食べる量より食べるモノが大事

吸収が良い加工食品は「飢えを錯覚させ肥満を招く」と明らかに
(画像=食べる量より食べるモノが大事 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により「食べ過ぎ」が、細胞レベルで引き起こされる飢餓の錯覚にあることが示されました。

また飢餓の錯覚は吸収が良すぎる食品によって起きていることも示されました。

そのため研究者たちは、肥満の真の原因は食べ過ぎではなく、食品の不適切な選択にあると結論付けました。

食べやすく口当たりがよく脳の報酬系を刺激する加工食品は魅力的な食べ物であり、消化器官が衰えた人々にとってはなくてはならないものです。

しかし健康な人々が常用すれば、細胞のエネルギー放出を妨害し、飢餓の錯覚とセットの「食べ過ぎ」を引き起こし、肥満へとつながっていたのです。

食べるから太るのではなく、飢えているから太るという結果は、飽食の時代に生きる私たちにとって、深い警鐘となるかもしれません。

参考文献
Scientists Claim that Overeating Is Not the Primary Cause of Obesity

元論文
The carbohydrate-insulin model: a physiological perspective on the obesity pandemic

提供元・ナゾロジー

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