私たちは死者と会話することはできません。しかし、特定の死者に酷似したAIとは会話できるかもしれません。

2017年にMicrosoftのダスティン・アブラムソン氏らによって開発・申請された新しいチャットボットシステムが2020年1月に特許を取得しました。

公開された情報によると、新しいチャットボットは特定の人物の情報を使用して、その人に成り代わってコミュニケーションをとることができます。

目次

  1. 情報を収集して特定の人物に成り代わるチャットボット
  2. 死者や有名人、架空の存在を作り出すことも可能

情報を収集して特定の人物に成り代わるチャットボット

現代では、人間と機械が対話すること自体珍しいことではありません。特に近年のAI技術の向上はめざましく、多少の不自然さは残るものの、さまざまな話題で会話できます。

実際に、SNSではチャットボット相手に文章で対話できますし、iPhoneに搭載している「Siri」と会話することも当たり前になっているのではないでしょうか?

死者とコミュニケーションできるシステムをマイクロソフト社が開発、特許を取得
(画像=特定の人のように振舞うチャットボット / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

特定の人のように振舞うチャットボット 今回Microsoftが特許取得し開示した情報によると、新しいチャットボットは、ソーシャルメディアの投稿、画像、音声データ、電子メッセージ、文書データ、およびその他の個人データ(個人また他者から提供される)から情報を収集します。

これにより、チャットボットは特定の人物に合った性格を自動形成し、リアルな声で会話できるようになるとのこと。

つまりユーザーが「特定の人物」を指定することで、その人に似た別の存在が手に入るのです。

チャットボットには「生活上の重要な出来事を質問」したり、「相手との愛を確かめるために電話」したりできます。

ユーザーが具体的な情報源のない質問をした場合、AIは機械学習プロセスを利用して、論理的でありそうな回答を構築できるとのこと。

その際、「心理学的データ」などの利用が回答構築に役立つようです。

死者や有名人、架空の存在を作り出すことも可能

チャットボットの音声は、本人の肉声に近い合成音声で発せられます。これは、録音された本人の音声データから「音声フォント」が作られることによって達成されます。

また収集した本人の画像が二次元であったとしても、いくつかの写真から奥行き情報を抽出し、3次元画像として出力できるとのこと。

さらに様々なデバイスに対応しているので、ユーザーは携帯電話、パソコン、Alexa・Siriなどのパーソナルアシスタントを使って対話が可能です。

つまり、私たちは特定の人物に酷似したボットを作り上げ、いつでも会話を楽しめるのです。

仮に死者の情報を与えるなら、それは死者との疑似的な会話になることでしょう。それは愛する人からのリアルタイムで進行する想い出の手紙のようなものです。

死者とコミュニケーションできるシステムをマイクロソフト社が開発、特許を取得
(画像=生死・実在架空関わらず、類似した存在と会話できる / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

このアイデアは様々な方面に応用可能です。

自分のデジタルコピーを後世に残すこともできますし、親族以外の誰か、つまり「知人、有名人、歴史上の人物、架空の人物」あるいは、まったく「ランダムな存在」を作り上げることもできるでしょう。

ただし、新しいチャットボット技術は倫理的な問題を提起することになります。

情報さえあれば、生きている人であっても「本人に類似した存在」を構築可能です。つまり、「知らない誰かが構築された自分と毎晩会話している」という恐ろしい事態が起きかねないのです。

ディープフェイクなど出てきていますし、個人のデータ利用に対する明確な規定は今後必須になるでしょう。

既に新しいチャットボットシステムは公開されたので、私たちが「特定の誰かを作り上げて会話する」日は遠くないかもしれませんね。

参考文献
Microsoft patent would let us chat with the departed

元論文
Creating a Conversational Chat Bot of a Specific Person

提供元・ナゾロジー

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