ティラノサウルス以前に地上の王者として君臨した「カルカロドントサウルスの新種」が発見されました。

新種の化石は、中央アジアのウズベキスタン共和国にある約9000万年前の地層から出土しています。

また本種は、大型化する前のティラノサウルスと共存していたことも判明し、”頂点捕食者”としての世代交代の経緯についても新たな知見が得られたとのことです。

研究は、筑波大、北海道大などにより、9月8日付けで学術誌『Royal Society Open Science』に発表されています。

目次

  1. ティラノサウルスにも「下積み時代」があった
  2. ティラノ以前の王者「カルカロドントサウルス」の新種を発見!

ティラノサウルスにも「下積み時代」があった

ティラノサウルスは恐竜時代の最後(約6800万〜6600万年前)に、捕食者として頂点に立った肉食恐竜ですが、実はそうなるまでには、下位に甘んじる長い歴史がありました。

彼らのグループ(ティラノサウロイディア類)はもともと小型種ばかりで、数千万年もの間、他の大型肉食種に太刀打ちできなかったのです。

そんなティラノサウルス以前の王者の筆頭に挙げられるのが、カルカロドントサウルス類でした。

カルカロドントサウルスは、最大全長が13メートルに達し、ジュラ紀末〜白亜紀(約1億〜9000万年前)まで、北半球の地上を牛耳っていました。

ところが、白亜紀の中盤に突然、北半球から姿を消し、南半球でのみ生息するようになります。

そのおかげもあってか、ティラノサウルスは大型化し、北半球の制圧に成功し、頂点へと昇り詰めました。

アジア最大級の肉食竜「カルカロドントサウルスの新種」を発見!
(画像=恐竜の王者・ティラノサウルスにも下積み時代があった / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

この世代交代は世界中の恐竜学者が注目している一方で、その経緯を語ってくれる化石記録が少なく、あまり理解されていませんでした。

北米で見つかった化石によると、両者が共存していた期間は約9600万〜9400万年前までで、この時期はカルカロドントサウルスが上位に立っています。

次いで、”北米の覇者”となった大型のティラノサウルスが出現するのは、約8400万年前から後のこと。

つまり、両者の世代交代の間には、1000万年ほどの空白期間が横たわっているのです。

この間に、一体何が起きたのでしょうか?

謎の空白部分を埋めるには、北半球における北米以外での化石記録、つまりアジア圏での化石が必要になります。

そこで研究チームは、中央アジアのウズベキスタン共和国に注目しました。

ティラノ以前の王者「カルカロドントサウルス」の新種を発見!

白亜紀当時はアジアとヨーロッパが巨大な海峡に隔てられ、アジアの東端に日本列島が、西端にウズベキスタンが位置する状況でした。

今日のウズベキスタン中部・ザラクドゥクには、「ビセクティ層」という白亜紀後期(約9200万〜9000万年前)に当たる地層があります。

この地層は、カルカロドントサウルス類とティラノサウロイディア類の世代交代を調べるには、最適な場所です。

また、ビセクティ層は、原始的なティラノサウロイディア類の小型竜「ティムレンギア」の化石の産出地でもあります。

ただし、大型の肉食恐竜の発見はまだ一度もありません。

アジア最大級の肉食竜「カルカロドントサウルスの新種」を発見!
(画像=化石の産出地 / Credit: 筑波大・北海道大 – ウズベキスタンで新種の大型肉食恐竜を発見〜ティラノサウルスのなかまとの交代劇に新証拠〜(2021)、『ナゾロジー』より引用)

本研究では、過去にビセクティ層から見つかった恐竜の上顎骨 (長さ24センチ、高さ13センチ)の化石を対象に調査しました。

その結果、既知種との系統関係を探る分析から、この化石がカルカロドントサウルス類に属するものと判明。

さらに、化石表面のシワ模様やコブ状の隆起から、新種であることが突き止められました。

これは、白亜紀後期の中央アジアにおける初のカルカロドントサウルスの記録となります。

アジア最大級の肉食竜「カルカロドントサウルスの新種」を発見!
(画像=新種の上顎骨の化石 / Credit: 筑波大・北海道大 – ウズベキスタンで新種の大型肉食恐竜を発見〜ティラノサウルスのなかまとの交代劇に新証拠〜(2021)、『ナゾロジー』より引用)

新種の学名は、”ウズベキスタンのウルグ・ベグのトカゲ”を意味する「ウルグベグサウルス・ウズベキスタネンシス」と命名されました。

ウルグ・ベグとは、15世紀のウズベキスタン地域を統治した君主で、数学者・天文学者でもあった人物の名前です。

化石のサイズから、全長は7.5〜8メートル、体重は1トンを超えたと考えられ、同国で見つかった最大の肉食恐竜となっています。

アジア最大級の肉食竜「カルカロドントサウルスの新種」を発見!
(画像=新種の復元イメージ、右下はティムレンギア / Credit: 筑波大・北海道大 – ウズベキスタンで新種の大型肉食恐竜を発見〜ティラノサウルスのなかまとの交代劇に新証拠〜(2021)、『ナゾロジー』より引用)

以前、ビセクティ層から見つかった大型化する以前のティラノサウルスである「ティムレンギア」の体重が170キロと推定されているので、新種はその5倍以上の体格だったことになります。

両者の間には、圧倒的な力の差があったでしょう。

アジア最大級の肉食竜「カルカロドントサウルスの新種」を発見!
(画像=新種の発見により空白期間がわずかに埋まる / Credit: 筑波大・北海道大 – ウズベキスタンで新種の大型肉食恐竜を発見〜ティラノサウルスのなかまとの交代劇に新証拠〜(2021)、『ナゾロジー』より引用)

今回の発見は、アジア圏でカルカロドントサウルス類とティラノサウロイディア類が共存していたことを裏付ける初の証拠となります。

この頃はまだカルカロドントサウルスが優位な立場にあり、少なくとも9000万年前まではティラノサウルスは下位にいたようです。

これにより、謎の空白期間をわずかながら埋めることができました(上図)。

また、ウズベキスタンは恐竜の化石研究がいまだ限定的であるため、さらなる大きな発見が期待できます。

研究チームは今後、ティラノサウルスの台頭やカルカロドントサウルスが北半球を去った理由を解明するべく、アジアを中心として発掘調査を進める予定です。

参考文献
ウズベキスタンで新種の大型肉食恐竜を発見〜ティラノサウルスのなかまとの交代劇に新証拠〜

Gigantic ‘shark-toothed’ dinosaur discovered in Uzbekistan
元論文 A new carcharodontosaurian theropod dinosaur occupies apex predator niche in the early Late Cretaceous of Uzbekistan

提供元・ナゾロジー

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