現代では非常に精巧な実在しない人間の顔を生成するAI技術が登場しています。
この人工知能によって作られた実在しない人物映像は「ディープフェイク」と呼ばれていて、今や人の目には本物とまったく見分けがつきません。
しかし、ニューヨーク州立大学(State University of New York; SUNY)は、ディープフェイクには本物と見分ける事ができる弱点があることを発見し、偽物を検出する技術を開発しました。
その秘密は瞳孔の形にあるといいます。
研究の詳細は、現在プレプリントサーバー『arXiv』に公開されています。
AIが生み出す実在しない顔「ディープフェイク」
上に二人の子どもの顔写真がありますが、このどちらが本物で、どちらが偽物か分かるでしょうか?
この顔写真では左の子が実在の人物の写真で、右は人工知能によって生成された偽物の画像です。
こうした人工知能に作られた偽の画像は、「ディープラーニング(深層学習)」と「フェイク」を組み合わせた造語「ディープフェイク」と呼ばれています。
この画像を生成しているのが、「敵対的生成ネットワーク(Generative adversarial networks; GAN)」と呼ばれる機械学習システムです。
このシステムの中には、贋作者(生成ネットワーク)と、鑑定士(識別ネットワーク)の2人が存在していて、贋作者が存在しない新しいデータを生成し、鑑定士がそれを見破ってダメ出しする、という作業を繰り返しています。
偽ブランドや、偽札などを作る贋作者は、最初見様見真似で偽物を作りますが、それを取り締まる警察やメーカーの鑑定士にバレてしまうと、改良してどんどん偽造の精度を上げていきます。
敵対的生成ネットワークでは、このイタチごっこを再現することで、どんどん精度の高い偽物を自動生成ができるようにしているのです。
ディープフェイクはもはや人の目では見分けがつかないレベルで非常に精巧な偽画像を生み出すようになっています。
しかし、ニューヨーク州立大学のフイ・グオ(Hui Guo)氏が率いる研究チームはこれを見破る方法を発見したといいます。
公開された論文によると、その秘密は目にあるのだといいます。
「ディープフェイク」の歪んだ瞳孔
上の画像はさきほど例にあげた敵対的生成ネットワーク(GAN)によって作成された人物の顔写真ですが、この二人の写真の目を拡大するとある異変に気づきます。
本物の人間の顔写真は、瞳孔がきれいな円形をしているのに対して、偽物の瞳孔はいびつに歪んでいるのです。
通常、健康な人間の瞳孔は円形です。
しかし、GANで生成された顔では目の領域に、明らかに確認できるレベルの不整合が見られたのです。
研究者によると、この奇妙な現象は、人工知能に人間の目の解剖学的構造の理解が不足しているために起きるものだといいます。
そこで研究チームは、写真の目から瞳孔の輪郭を自動抽出して、円形の度合いを調査する検出ツールを作ってみました。
そして、そのツールで2000枚の画像(内1000枚は本物の顔で、1000枚はGANが生成した偽物)をディープフェイクかどうか判別する実験を行ったのです。
するとこのツールは、本物と偽物を確実に区別することができたのです。
実際の人間の瞳孔とは異なり、高品質のStyleGANで作成された顔であっても、瞳孔には不規則な形状が広く存在しているとわかりました。
ディープフェイクは、現在ソーシャルメディアプラットフォームなどで人々を欺くために利用されることも増えてきました。
総務省に報告されているデータでは、2020年12月に検出されているディープフェイク動画は8.5万件に登るといいます。
今回の技術は、非常にシンプルな方法で、こうしたディープフェイクの悪意ある利用に対抗する手段として役立つ可能性があります。
もちろん、それは誰かがAIに適切な人間の瞳孔の形を教えるまでは、という話になりますが。
参考文献
Something in The Eyes Reveals if You’re Looking at a Person Who Doesn’t Exist
総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第27回)
元論文
Eyes Tell All: Irregular Pupil Shapes Reveal GAN-generated Faces
提供元・ナゾロジー
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