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- 南極の「アデリーペンギン」は、温暖化によって繁殖率を高めることが判明
- 海氷がなくなることで、移動範囲が広がり、エサの捕獲率が上がっていた
温暖化の影響で生息地を失い、移動を余儀なくされる生物はたくさんいます。
しかし、日本・国立極地研究所の最新研究により、南極に住む「アデリーペンギン」は、温暖化のおかげで逆に繁栄が進むことが明らかになりました。
現地での追跡調査の結果、アデリーペンギンは、南極の海氷面積が減るほど、繁殖率が高くなり、幸福度を増していたのです。
氷はペンギンにとっての大切な住みかであるはずなのに、これは一体どういうことなのでしょうか。
小型GPSをつけて追跡調査
これまでの研究で、アデリーペンギンは、海氷がまばらで少ないシーズンに個体数が増加し、反対に海氷面積が大きくなると、繁殖の失敗率が高くなることが知られていました。
ところが、この結果は、個体数と海氷面積の相関関係を示しているにすぎず、双方をつなぐメカニズムまでは分からなかったのです。
そこで研究チームは、海氷面積の違いがアデリーペンギンにどう影響するかを調べるため、4シーズン(各シーズン12月~1月)にわたる追跡調査を行いました。
具体的には、175羽のアデリーペンギンを対象に、小型GPS・加速度計・ビデオカメラを装着し、歩行・遊泳・休息時間・捕獲したエサの数などを記録しています。
その結果、海氷面積が少ないほど繁殖率が高まるメカニズムが明らかになりました。
海氷がないことで移動範囲が広がっていた
海氷がある場合、アデリーペンギンの群は、氷上を徒歩で移動し、氷の割れ目を見つけたら潜水します。これだと、移動に体力や時間がかかり、休息時間も多くなってしまいます。
ところが、海氷がない場合、ペンギンたちは海中を泳いで移動するようになりました。すると、行動範囲が広がり、移動距離が増えたにもかかわらず、移動時間は減っていたのです。
これは、「徒歩より遊泳の方が4倍も速いこと」や「氷の割れ目に制限されることなく自由に移動や浮上ができる」ことによります。
エサの増加で栄養状態が格段にアップ!
さらに、日光が当たる海面積が増えることで、植物プランクトンの大量発生が起きていました。
それにより、植物プランクトンをエサにするオキアミの数が急激に増加。オキアミのサイズや栄養分も、海氷があるシーズンと比べると、圧倒的に大きく、高くなっていました。
オキアミは、アデリーペンギンの主要な栄養源です。
その結果、アデリーペンギンの獲物の捕獲率も上がり、仲間同士でのエサの奪い合いもなくなっています。
こうした理由から、アデリーペンギンの健康状態が向上し、親鳥の体重に増加傾向が見られました。そのおかげで、ヒナの繁殖率や成長速度、生存率が格段に上がっていたのです。
現時点で、南極の海氷は増加の一途をたどっていますが、今世紀中には急激な減少に転じると予測されています。しかし、アデリーペンギンにとって、海氷の減少はむしろメリットになるのです。
気候変動で絶滅の危機に迫られる生物が多い中、アデリーペンギンは、数少ない温暖化の勝者となるかもしれません。
研究の詳細は、6月24日付けで「Science Advances」に掲載されています。
Foraging behavior links sea ice to breeding success in Antarctic penguins
提供元・ナゾロジー
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