目次

  1. 「透明マント」の材料として最適なメタマテリアル
  2. メタマテリアルと免震構造
  3. 偶然?意図的?…それとも自然選択の結果か?
コロッセオに「見えざるシールド」が発見される
(画像=Credit: pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

Point
■ローマのコロッセオが、メタマテリアルと酷似した構造パターンを持つことが判明
■この構造により、長い間コロッセオは地震による損傷から守られてきた可能性がある
■この構造が偶然か意図的かは不明で、自然選択の結果としてこの構造を持つ建造物が残ってきた可能性も

光を含む電磁波に対し、自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質である「メタマテリアル」。

ローマのコロッセオが、このメタマテリアルと非常によく似た構造パターンを持ち、長い間コロッセオを地震による損傷から守ってきた可能性が浮上した。

査読前の論文が「Arxiv」に掲載されている。

Role of nanophotonics in the birth of seismic megastructures

「透明マント」の材料として最適なメタマテリアル

メタマテリアルが持つ光の波長より小さな構造体は、光学の常識を越えて光の屈折率を自在に操ることができる。

通常、自然界の物質は正の屈折率を持つ。しかしメタマテリアルは負の屈折率を持つため、屈折は光が入ってきた側と同じ側に起こる。つまり、非常に鋭い角度で光が曲がるのだ。

物体をメタマテリアルで覆うと、そこを通る光が曲がるため、中の物体が見えなくなる。すぐ後ろの景色は見えるのに、対象物体は透明で見えない、まさに「透明マント」ような技術が可能になるのだ。

メタマテリアルと免震構造

近年このメタマテリアルが、地震などによる建物やインフラの損傷を軽減することが明らかになってきた。

地震が発生すると、レイリー波(表面波)と呼ばれる浅い地震波が起こる。構造物への深刻なダメージをもたらすのはこの波だが、メタマテリアルの原理でこの波の進行方向を変えることができるのだ。

具体的には、建造物が立つ周囲の土に、穴や物体でつくった格子で覆う。その格子に特定の地震波が通過すると、格子内で無数の反射が生まれてお互いの作用を邪魔し、その結果、建造物の揺れがかなり軽減されるというもの。まさに見えざるシールドだ。

しかしこの構造、果たしてローマ人が意図的に配置したものなのだろうか?

偶然?意図的?…それとも自然選択の結果か?

研究チームの一人であるステファン・ブルレ氏がコロッセオの半円構造の写真を見たところ、コロッセオの柱がメタマテリアルの小さな構造体の配置と完全に一致していることがわかった。

しかもローマのコロッセオだけでなく、同時代に建てられた他の円形劇場の基本構造とも類似していたのだ。

コロッセオに「見えざるシールド」が発見される
(画像=Credit: David R. Smith/Duke University、『ナゾロジー』より 引用)

古代ローマのエンジニアたちが、意図的にこのような構造を建造物に持たせたというのは少し考えがたい。経験的にこのような建築物が地震に強いことを知っていた可能性はあるが、一種の「自然選択」の結果、こうした構造を持つ建造物が今日に残ったと考えることもできるだろう。

コロッセオに「見えざるシールド」が発見される
(画像=Credit: pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

外敵に気づかれることを防いでくれる透明マントのように、建造物を崩壊や損傷から守ってくれるメタマテリアル構造。学校や病院といった公共施設を見えないシールドで覆うことで、都市計画に活かせる可能性も秘めている。

もしこのことを古代ローマのエンジニアたちが知ったら、自分たちの仕事をとても誇りに思うに違いない。

reference: arstechnica

提供元・ナゾロジー

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