目次

  1. MRIで社会的相互作用を計測する
  2. 2人用MRIの可能性と課題点
距離3cmで見つめ合いながら脳活動を測定する「2人同時に入れるfMRI」が開発
(画像=Credit:RAY LEE、『ナゾロジー』より 引用)

point

  • 米国で2人同時に入れるMRIが開発された
  • 2人用MRIによって、コミュニケーションの際の脳の相互作用を測定できるかもしれない

MRIは一般的な医療技術として多くの人に知られています。多くの人が「筒形の装置の中に1人で入っていく」のをイメージするでしょう。最近になって、そんな常識を覆す2人同時に入るユニークなMRIが開発されました。

研究者たちは、2人用のMRIを使って、対人関係における脳の相互作用を測定しようとしています。

2人用MRIは米国国立科学財団(NSF)によって現在初期テスト中です。

研究の詳細は「AAAS Science」に掲載されました。

MRI scanners built for two push limits of neuroimaging

MRIで社会的相互作用を計測する

距離3cmで見つめ合いながら脳活動を測定する「2人同時に入れるfMRI」が開発
(画像=Credit:pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

MRIを利用したfMRI(functional magnetic resonance imaging)は人や動物の脳の血流動態反応を測定して神経活動を推定することができます。

人は相手とコミュニケーションをとるときに、相手の気持ちを察したり、伝えようとしたりと、脳が複雑な仕方で働きます。

このfMRIはそのような社会的相互作用を研究するための一般的なツールとなっています。人が他の人とコミュニケーションをとるときの神経作用をfMRIで測ることで、脳に起こる相互作用を計測するのです。

通常のMRIには1人しか入れないので、これまでの測定ではMRIの中で人の顔写真を見たり、音声の録音を聞いたりすることで、脳の働きを調べていました。

しかし、この方法では脳に流れる情報は限られており、実際の対人コミュニケーションとは大きくかけ離れています。

仮に、オンラインビデオチャットを活用したとしても、実際のコミュニケーションに比べると、膨大な量の対人関係情報が欠如してしまうことが分かっています。

正確な社会的相互作用を測定するためには「リアルな状況」が求められるのです。

この問題にアプローチすべく、大胆でユニークな方法が取られました。「実際のコミュニケーション」を測定したいなら、「MRIに2人で入ってコミュニケーションを取ればいい」というわけです。

2人用MRIの可能性と課題点

距離3cmで見つめ合いながら脳活動を測定する「2人同時に入れるfMRI」が開発
(画像=Credit:RAY LEE、『ナゾロジー』より 引用)

開発された2人用MRIでは2人が一緒にMRIの中に入れるようになっています。隣接する脳から別々の信号を読み取るために専用のペアヘッドコイルが必要になり、MRIに入る2人はお互いに見つめ合いながらスキャンされます。

初期テストで、MRIで測定されるパートナーは、互いの唇に指で触れ合いました。MRIは唇に触れた時の感触による神経活動と、指が触れたことの視覚認識による神経活動の両方を記録できました。

現段階ではここまでの結果しか得られていませんが、NSFの神経科学者のエレンによると、「将来の研究では、空気を読んだり相手に共感させたりするときの脳の働きを知ることができる」ようです。

ただし、2人用MRIとその利用については、多くの課題があると考える人も多いようです。fMRIの測定には少しの時間が必要なので、2つの脳の瞬間的な神経作用を測り損ねてしまうかもしれないからです。

また、測定される状況は普通の状況ではない(鼻先3センチに見知らぬ人の顔がある)ので、「通常の社会的相互作用とはなり得ない」とも指摘されています。

2人用MRIはユニークで発展途上の技術ですが、自閉症の子供と親のやり取りの際の脳の働きなど、これまでに見過ごされていた点を解明するための大きな可能性を秘めています。

提供元・ナゾロジー

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