加齢と共に増していく魅力もありますが、美貌に関してはどうやっても若いころより衰えてしまいます。

その原因は、シワの増加や垂れ下がった皮膚に原因があると考える人がほとんどでしょう。

しかし、研究によると老化の影響はそれだけでないことがわかってきました。

人間は、年齢とともに徐々に顔の対称性が低下しているのです。

では、なぜ人の顔は年齢とともに非対称になってしまうのでしょうか?

この問題について米ハーバード大学医学部の形成外科医ヘレナ・テイラー(Helena Taylor)氏が、2018年に科学雑誌『Plasticand Reconstructive Surgery』に掲載された自身の論文を元に解説しています。

目次

  1. 人の顔はどの程度対称なのか?
  2. 顔の非対称性と相関する要因

人の顔はどの程度対称なのか?

米ハーバード大学医学部のマウント・オーバーン病院で外科助教授を務めるヘレナ・テイラー氏は、形成外科手術の方針・手順を決定する方法について、研究を行っていました。

テイラー氏が考えていたのは、形成外科の手順をよりデータ駆動型(データを元にして意思決定すること)にするということでした。

形成外科では、外傷を負った人の顔を修復する再建外科という分野があります。

この手術の際に目標とされるのが、特徴を対称に近づけるように顔を再建するということです。

ただ、すべてを対称にすればいいというわけではありません。

この世のものは、ほとんどすべての面において、ある程度自然な非対称性が存在しています。

そのためテイラー氏は、形成外科医が達成するべき対称性とはどのような範囲なのか? ということを調査したいと考えたのです。

ヒトは年齢とともに「顔の対称性」が低下していた
(画像=人は対称性に美しさを感じるが自然は基本的に非対称性を含んでいる / Credit:pixabay、『ナゾロジー』より引用)

その過程でテイラー氏が気づいたのは、形成外科では損傷していない人の顔の情報というのが圧倒的に不足しているということでした。

「私たちには損傷を負い、顔の再建のためにやってきた子どもたちの画像がありました。

しかし、通常の人の顔が持つ非対称性の量については、データがないことが明らかになったのです」

そこでテイラー氏のチームは、3次元写真計測を使用して、生後4カ月から88歳までの191人のボランティア参加者の詳細な顔画像をレンダリングしました。

そして、そのデータから各参加者の顔の対称性を計算し、定量化するコンピュータアルゴリズムにかけたのです。

顔の非対称性と相関する要因

研究から得られたデータを元に、テイラー氏は顔の非対称性と相関する要因がないかということを調べてみました。

彼女は、性別、人種などありえそうな要因を比較していきましたが、そこには顔の非対称性と相関する傾向は見つかりませんでした

しかし、年齢との間にはかなり線形の相関性があるとわかったのです。

人の顔は、年齢の上昇とともに非対称性が大きくなっていたのです。

ヒトは年齢とともに「顔の対称性」が低下していた
(画像=顔の対象性は年齢と共に低下していた / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

では、そのようなことが起きる原因はなんなのでしょうか?

テイラー氏は、この理由を次のように説明します。

「これは時間の経過とともに顔に作用する重力を含めた力のかかり方が均等ではないためです。

たとえば顔の片側の皮膚がたるんだからと言って、反対側の皮膚も同じようにたるむとは限りません

また顔を特徴づける骨格を含めた成長の仕方も、顔全体で均等ではありません

時間が経てば経つほど、これらの作用は積み重なっていきます。

それが顔が年齢とともにどんどん非対称になっていく原因と考えられるのです。

そのため、この現象は顔だけに起きていることではないだろう、とテイラー氏は付け加えています。

この研究の発見は、いつか形成外科医を導くために役立つ可能性があります。

口唇口蓋裂(唇の一部に裂け目の現れる先天性異常。「兎口」などの俗称がある)のような、長期間に渡り複数の手術を必要とする障害の形成外科手術では、再建の最終目標をどこにおくかは個々の医師に任されています。

ヒトは年齢とともに「顔の対称性」が低下していた
(画像=口唇口蓋裂の形成外科治療の過程を示した画像 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

形成外科では、顔の形を整えたというゴールが医師によって異なっているのです。

この現状をもっとデータによって明確に判断できるようにすることが今回の研究の目標としていることなのです。

人の顔が持つ標準的な対称性、あるいは非対称性の母集団の範囲というものが特定できれば、形成外科治療のゴール地点を定めやすくなります

もともとは形成外科の目標を定めるためにはじめられた研究ですが、そこからは加齢が人の顔に及ぼす、シワやたるみ以外の影響も明らかにしました。

赤ちゃんの顔が整っていて可愛いと感じるのは、綺麗な肌や無邪気な笑顔だけの要因ではなかったようです。

参考文献
Why do faces become less symmetrical with age?

元論文
The Relationship between Age and Facial Asymmetry

提供元・ナゾロジー

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