絶滅動物の生きた姿は二度と見ることができません。

恐竜にせよマンモスにせよ、その動く様子は、化石から全体像を復元して、CGで動かすしかないのです。

しかし、オーストラリア国立映画音響アーカイブ(NFSA)は7日、1936年を最後に絶滅した「タスマニアタイガー」の残されたフッテージをカラー復元し、生前のリアルな姿を蘇らせることに成功した、と発表しました。

映像の修復には、およそ200時間以上が費やされたとのことです。

目次

  1. 200時間の修復作業で蘇った生前の姿

200時間の修復作業で蘇った生前の姿

タスマニアタイガーは、正式名を「フクロオオカミ(学名:Thylacinus cynocephalus)」といい、オーストラリアのタスマニア島に生息していました。

フクロネコ目の大型肉食獣に属し、背中にトラのような縞模様があることから、タスマニアタイガーとあだ名されています。

およそ400万年前に出現し、捕食者として繁栄しましたが、3万年ほど前に人類が入植してきたことで状況が一変。

人類とその家畜だったディンゴとの生存競争に敗れ、数が激減しました。

今回カラー修復された77秒のフッテージに映るのは、その最後の生き残りとされる「ベンジャミン」というオスの個体です。

この映像は、1933年12月にカメラマンのデビッド・フレイが、タスマニア州のホバート動物園で撮影したもので、撮影中にお尻を噛まれたと言われています。

修復に200時間「絶滅種・タスマニアタイガー」のカラー復元に成功
(画像=1902年頃に撮影されたオスとメスのつがい / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

NFSAは今回、パリ在住のサミュエル・フランソワ・スタイニンガー氏にフッテージを送り、カラー修復を依頼しました。

スタイニンガー氏は、修復に当たって、次のように述べています。

「この映像は年代のわりには画質の良いものでしたが、映っている動物を除くとフレーム内の要素が少ないため、カラー化は非常に骨が折れました。

画質が粗いこともあって、修復には膨大な細かい作業を必要としました。タスマニアタイガーの毛皮は密集しており、それぞれの毛を詳細にアニメーション化しなければならなかったのです。

また、カラー化の選択については、さまざまな博物館で保存され、色が保たれている本物の毛皮を元にしました。

しかし、どんなに保存状態の良い毛皮でも時間が経つと色あせてしまうので、タスマニアタイガーの生前のスケッチや絵画、文章による説明も参考にしています。

技術的な観点から、デジタル修復、ロトスコーピング、2Dアニメーション、照明、動きやノイズのAIアルゴリズム、合成、グレーディング(映像の階調と色調を整える画像加工処理)を組み合わせて、すべてをデジタル上で行いました。」

こうして、200時間以上をかけて完全修復されたベンジャミンの映像がこちらです。

 ベンジャミンは、小さなケージの中を歩き回り、あくびをしたり、横になったり、後脚でわき腹をかく様子が収められています。

色だけでなく、画質も修正されたことで、つい最近撮影されたかのような仕上がりとなりました。

本映像は、ベンジャミンが1936年の9月7日に亡くなったことを記念して、毎年9月7日に開催されるオーストラリアの「全国絶滅危惧種の日(National Threatened Species Day)」に合わせて公開されました。

1936年以降もタスマニアタイガーの目撃情報はいくつか報告されていますが、どれも不鮮明であり、生存の確証は得られていません。

一般的には、ベンジャミンの死をもって、タスマニアタイガーは絶滅したと考えられています。

参考文献
Extinct Tasmanian tiger brought to life in colour footage

Film Of The Last Captive Tasmanian Tiger Colorized For The First Time

提供元・ナゾロジー

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