アルツハイマー病は脳が委縮していく病気であり、認知機能に大きな影響を与えます。
世界保健機構(WHO)によると、認知症の原因の約7割がアルツハイマー病であり、早期発見と治療によって進行を遅らせることが可能です。
そして最近、リトアニア・カウナス工科大学(Kaunas University of Technology:KTU)マルチメディア工学科に所属するモデュペ・オデュサミ氏ら研究チームは、アルツハイマー病を99.99%の精度で予測するアルゴリズムを開発しました。
研究の詳細は、6月10日付の科学誌『Diagnostics』に掲載されました。
アルツハイマー病の増加と早期発見の必要性
アルツハイマー病を含む認知症は、年齢との相関が強いと言われています。
私たちが実感しているように、高齢者ほど認知症になる確率が高いのです。
しかも近年、生活水準の向上などさまざまな要素が原因で、世界の平均年齢は上昇してきました。
つまり今後も、認知症患者数は増加していくと考えられます。
しかもその原因の多くがアルツハイマー病であるため、アルツハイマー病の早期発見・治療が大切だと言えるでしょう。
ところが初期アルツハイマー病の見極めは、きわめて難しいようです。
なぜならアルツハイマー病の初期症状は、軽度認知障害(MCI)だからです。
これは「加齢に伴う自然な認知機能の衰え」と「認知症」の中間的な状態であり、本人や周囲の体感としては、「物忘れがあるものの、日常生活は問題なく送れる」くらいなのです。
当然、本人たちが気づくのは難しく、それは医療従事者たちも例外ではありません。
これまでの研究から、fMRIを利用してMCIが進行している脳領域を特定することが可能だと分かっています。
ところが脳画像を手作業で判断するには、高度な専門知識が必要なだけでなく、非常に多くの時間が必要になります。
そこで研究チームは、機械学習ツールを用いてアルツハイマー病を発見しようとしました。
99.99%の精度で初期のアルツハイマー病を発見できるアルゴリズムが開発される
研究チームは、138人のfMRI画像を用いた機械学習により、新しいアルゴリズムを開発しました。
このプロセスには、これら138の画像を「健常者」から「重度のアルツハイマー型認知症患者」まで、6つのカテゴリーに分別することが含まれています。
さらに数万枚の画像がトレーニングと検証のために用いられました。
そしてアルゴリズムの完成後、別のデータセットで精度を検証しました。
その結果、アルゴリズムはMCIの特徴を正しく識別することができ、99.95~99.99%の精度を達成したとのこと。
とはいえ、新しいアルゴリズムの診断結果をそのまま鵜呑みにできるわけではありません。
チームもその点を次のように述べています。
「医療従事者はアルゴリズムに100%依存すべきではありません」
「このアルゴリズムは、データ整理や特徴の検索など、最も面倒な作業を行うロボットのようなものであり、専門家が症状をより詳細に調べたり、素早く結果を出したりするのに役立ちます」
つまり今回の成果は、「医療従事者が使う道具の精度が格段に向上した」ということであり、その恩恵は確かに大きなものだと言えますね。
研究チームは医療をより身近で安価なものにすることを目標にしています。
そのため今後は、新しいアルゴリズムを携帯可能なソフトウェアやアプリにするための開発を続ける予定です。
参考文献
Machine learning tool 99% accurate at spotting early signs of Alzheimer’s in the lab
元論文
Analysis of Features of Alzheimer’s Disease: Detection of Early Stage from Functional Brain Changes in Magnetic Resonance Images Using a Finetuned ResNet18 Network
提供元・ナゾロジー
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