現在、いくつかの国や地域では、サンゴ礁の白化が問題になっています。
これは海水温の上昇によって生じる現象であり、この状態が続くならサンゴ礁は壊滅してしまいます。
そこでオーストラリア・サザンクロス大学(SCU)の国立海洋科学センター(National Marine Science Centre)に所属するダニエル・ハリソン氏ら研究チームは、海上の雲を増強して太陽光を跳ね返す「マリン・クラウド・ブライトニング(Marine Cloud Brightning)」を試行しました。
将来的には海水温の上昇が抑えられ、サンゴ礁の白化現象を阻止できるかもしれません。
研究の詳細は8月25日、科学誌『Nature』にニュース記事として掲載されました。
地球温暖化に対する奇策「マリン・クラウド・ブライトニング」
地球温暖化の対策にはさまざまな方法があり、現在でも多くのプロジェクトが進行中です。
その中には、「マリン・クラウド・ブライトニング(Marine Cloud Brightning)」と呼ばれるコンセプトも含まれます。
これは「海上の雲を人為的に大きくして、地球に降り注ぐ太陽光をより反射させる」というもの。
もともと海上では厚い雲が生成されやすく、人の介入によって、そのプロセスの促進が可能だと考えられているのです。
このコンセプトを実現させられるなら、海水温の上昇を防ぐだけでなく、地球全体の温暖化をコントロールできるかもしれません。
とはいえ、実際にマリン・クラウド・ブライトニングを成功させるには、膨大な数の実験と資金が必要になります。
また人為的に雲を大きくしたり作ったりした場合、他の地域にどのような影響があるのか分からないという懸念があり、賛否両論な方法でもあります。
しかしハリソン氏ら研究チームは、サンゴ礁を守るため、マリン・クラウド・ブライトニングのプロジェクトを進めてきたようです。
人為的に雲を増強してサンゴ礁を救う
サンゴ礁の白化現象は、地球温暖化に伴う海水温の上昇によって生じます。
これはサンゴに共生する褐虫藻(かっちゅうそう)が、海水温の上昇によって放出されることが原因です。
褐虫藻を失ったサンゴは白い骨格が透けて見え、この状態が長く続くと、サンゴが褐虫藻から光合成生産物を得られずに死滅してしまうのです。
この白化現象は世界中の問題となっており、オーストラリア北東岸に広がる世界最大のサンゴ礁地帯「グレートバリアリーフ」でも同様です。
そのため研究チームは、マリン・クラウド・ブライトニングによって海水温の上昇を防ごうとしてきました。
ミストマシンのテストを実施!スケールアップが課題
研究チームは、サンゴ礁を救うため、海水を空気中に噴霧するミストマシンを開発。
噴霧された海水が蒸発すると、ナノサイズの海塩の結晶だけが残ります。
これが雲粒(雲を構成する水の粒)の種となり、既存の雲を増強。
増強された雲はより太陽光を反射するようになるのです。
今回チームは、2隻のボートでミストマシンのテストを行いました。
片方のボートには合計320のノズルが装備されており、空に向かって海水を噴霧します。
そしてもう片方のボートには空気サンプリング装置やドローン、センサーが装備されており、テストの様子を観測しました。
とはいえ今回のテストでは、雲の反射率を向上させるには至っていません。
チームは「ミストマシンを10倍にスケールアップさせる必要があるかもしれない」と述べています。
現在、ハリソン氏は2年分の資金を調達しており、今後もプロジェクトは進められる予定です。
もしかしたら将来、人為的に大きくした雲がサンゴ礁を守るようになるかもしれませんね。
参考文献
Can This ‘Cloud-Brightening’ Technique Save the Great Barrier Reef?
Can artificially altered clouds save the Great Barrier Reef?
提供元・ナゾロジー
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