1月27日月曜日、パリ・シャンゼリゼ大通りの公園内にあるパヴィヨン・ガブリエルで、ミシュラン・ガイド120周年を迎えた”赤いガイドフランス版”2020年の出版セレモニーが開催された。毎年このセレモニーで新しい星の格付けが発表される。今年、料理界の歴史を変える出来事がここで起きた。なんと日本人シェフが三つ星に輝いたのだ!その様子を現地からレポートする。

 「今年の新しいパリの三つ星として栄誉を授けられたのは、ジル・グジョン、アラン・デュカスの薫陶を受け、文化を融合した、、、」とミシュラン・ガイドのインターナショナルディレクターのグウェンダル・プルネック氏が大きな声をはりあげた瞬間、みなが一斉に席を立って拍手喝采した。グジョン、デュカスのもとで鍛錬をしたシェフといえば、【レストラン・ケイ】のオーナーシェフ小林圭氏の他いない。壇上に登り「たくさんの日本人がフランスで挑戦しているが、我々に場所を与えてくれたことに感謝している。フランス、ありがとう」と述べた言葉は、フランスのメディアでも何度も報道された。
 

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受賞の発表を受けて、コメントをする小林圭氏(画像=ヒトサラMAGAZINEより引用)

 昨年、コートダジュール・マントンにある【ミラジュール】のオーナーシェフでアルゼンチン人のマウロ・コアグレコが、外国人として初めての三つ星を獲得したことが話題になったが、今年も外国人の三つ星登場であり、日本人として初、という快挙だ。

 今年は3名の三つ星が誕生した。小林シェフのほか、大西洋沿いの港ラ・ロシェルのクリストファー・クタンソー氏(レストラン名も同名)と、南仏【ルストー・ドゥ・ボーマニエール】のグレン・ヴィエル氏である。プレネック氏のコメントで興味深かったのは、クタンソー氏は海の幸をリスペクトした漁師であり料理人、ヴィエル氏はプロヴァンスのアール・ド・ヴィーヴルの大使であると称し、その背景とともに讃えたのに、小林シェフに関しては、仕事そのものを称賛したことだ。「フランス料理を精密にリアライズする完璧主義者だ」と。
 

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【RESTAURANT KEI】のある日のコースメニューより(画像=ヒトサラMAGAZINEより引用)

 現在フランス全土で29の三つ星が存在するが、そのうちパリ市内の三つ星は10件。美食の街として世界最高峰であり、しかも世界中から客を受け入れるパリのレストランのレベルには、非常に高いものが要求される。他9軒のシェフの名前を挙げれば、アラン・パッサール、ヤニック・アレノ、アラン・デュカス、エリック・フレション、ベルナール・パコー、クリスチャン・ル・スケール、ギー・サヴォワ、ピエール・ガニエールと、どの面々も一瞬の隙も見せない料理人ばかり。このトップに、我が国の小林シェフもくい込むとは。
 

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【RESTAURANT KEI】の居心地のよい店内(画像=ヒトサラMAGAZINEより引用)

 しかも個人店を営む経営者としての三つ星であり、小林シェフのバックには、パラスホテルや企業の経済的支援も存在しない。本物の快挙だろう。小林シェフは、昨年からの計画で、少しでも3つ星に近づけるため、今春にはトイレの改修工事、夏には店全体の大改装を予定してきたが、その前にミシュランは三つ星を授けてくれた。昨年は小林シェフが知るだけでも、ミシュランの調査員が5回も来ていたそうだ。ミシュランは彼の真摯な努力にも報いてくれたか。
 

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師でもある、アラン・デュカス氏と小林氏。小林氏に祝福の言葉をかけているのだろうか。左側には、喜びを満面にたたえたジル・グジョン氏の顔も見える(画像=ヒトサラMAGAZINEより引用)

 小林シェフの夢は昔から世界一のレストランを作ること。「四つ星があれば四つ星を、五つ星があればそれを目指したい。すべてはお客様に、来て良かったと思っていただける、最高の時を用意するためです」と。三つ星を獲得した今、スタッフたちも労いながら「これからがスタート」と断言。ところで、今年格上げされた星付きレストランは63軒。日本人の昇格は、二つ星2軒で、【ヤニック・アレノ パヴィヨン・ルドワイヤン】内の鮨店【ラビス】の岡崎泰也さん、とシャンパーニュ地方ランス【ラシーヌ】の田中一行さんだった。
 

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今年から新しく設けられた「グリーンリーフ」のマーク。50名の名前が呼ばれた。アラン・パッサール氏の姿も見える(画像=ヒトサラMAGAZINEより引用)

 ミシュランは、昨年「トリップ・アドバイザー」とのパートナーシップを開始し、さらにはロバート・パーカーが1978年に創立したワイン批評誌を手中におさめるなど、メディアにおける影響力にも王手をかけている。プレネック氏は、今回の発表で「多くの人々に開かれたガイドであることを目指す」と強調し、こうした最近の動向への説明とした。また、「グリーンリーフ」の新しい格付けを設けたのも、2020年のガイドの初めての試みで、‘より開かれた’ガイドであるための、社会的な責任にもアピールした。環境保全、持続可能な世界のために、料理人の責任としてイニシアチブをとる店を評価するマークで、フランスを皮切りに、世界に広めていくということだ。
 

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「グリーンマーク」を受賞し、今年も去年に引き続き三つ星を獲得した【ミラズール】マウロ・コラグレコ氏(中央)(画像=ヒトサラMAGAZINEより引用)

 今年評価されたのは50軒。パリでは三つ星アラン・パッサールの【アルページュ】、ホテル・プラザ・アテネの【アラン・デュカス】、一つ星ベルトラン・グレボーの【セプチーム】、さらに昨年三つ星を獲得した【ミラズール】など。また、今年3つ星を獲得した小林シェフ以外の2人もこのマークの格付けがされていた。持続可能な料理に取り組むことは、星の評価にもダイレクトにつながっていくとも想像できる。

2020年ガイドの唯一の三つ星降格店は名店【ポール・ボキューズ】。公開日前に発表され、大きな話題となり物議を醸していた。しかし、若手にその席を譲るというミシュランの意思表示のための打たねばならなかった布石だろう。時代の潮流とともに、フランス料理が目指す先の変遷も感じられた。

撮影/吉田タイスケ(RESTAURANT KEI) 取材・文/伊藤文

提供元・ヒトサラMAGAZINE

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