「空を飛ぶ人型ロボット」には、それが実用的かどうかはさておき、ロマンがあります。
そんな夢の実現に一歩近づいたのは、中国・広東工業大学(Guangdong University of Technology)に所属するユーハン・リー氏ら研究チームです。
彼らは4つのファンを装着した二足歩行ロボット「Jet-HR2」を開発し、しばらく飛行させることに成功しました。
研究の詳細は、8月26日付でプレプリントサーバー『arXiv』に掲載されています。
足にファンを付けてバランス能力を向上させた「Jet-HR1」
2018年、同研究チームは、足にファンを取り付けた「Jet-HR1」を発表しました。
二足歩行ロボットの弱点はそのバランス能力にあります。
なぜなら移動するためには片方の足を上げなければならず、その間、もう片方の足だけでバランスを取る必要があるからです。
特に大きな歩幅が要求される「幅広い溝」「大きな段差」などに直面すると、転倒のリスクが非常に高くなります。
そこでチームは、2本の足にファンを1つずつ装着することで、安定性を向上させることにしました。
その結果、ファンの推力によって、動画にあるような幅広い溝を難なくまたげるようになっています。
これは二足歩行ロボットにおける画期的なアイデアであり、実用性・応用性ともに高いことから、続く研究報告に期待が高まっていました。
そして2021年8月、チームは後継機である「Jet-HR2」を発表。
研究チームが力を傾けたのは、「歩行」の分野ではなく、二足歩行ロボットに「空を飛ばせる」ことでした。
空を飛ぶ二足歩行ロボット「Jet-HR2」が開発中
開発中のJet-HR2には、Jet-HR1と同様、2本の足にそれぞれ1つずつファンが装着されています。
さらに追加で2つのファンをロボットの腰に装着。
それぞれのファンの推力は5kg(合計20kg)なので、17kgのロボットを持ち上げるには十分な推力を生み出します。
課題は空中でバランスを保つことですが、Jet-HR2は両足を動かして姿勢を制御するようです。
動画では離陸時の姿勢制御の様子が映し出されています。
何度かの試行の後、ある程度の安定性が得られたようです。
チームは空を飛ぶ二足歩行ロボットを作った理由を、「災害救助・捜索用」としています。
二足歩行ロボットは複雑な地形を登ったり乗り越えたりするのに向いていますが、ロボットの体長を超える段差やより複雑な地形では無力です。
そのため飛行能力を持たせるなら、より難しい環境での移動と作業が可能になるというのです。
とはいえ、空飛ぶ二足歩行ロボットを災害現場用に実用化させるのは非常に難しく、現段階では効率的な計画だとは言えません。
ドローンや4足歩行ロボットの方がまだ現実的です。
今のところ、「足のファンで空を飛ぶ人型ロボットを作りたかったから、作った」という感じですね。
もちろん将来的には、この研究が別のアイデアの基礎となるかもしれないので、Jet-HRシリーズの今後も見守っていきたいものです。
参考文献
We’re Getting Closer to Flying Humanoid Robots> As if humanoids weren’t hard enough, try getting one to fly
元論文
Design of a Flying Humanoid Robot Based on Thrust Vector Control
提供元・ナゾロジー
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