英国の著名理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士がは、「AIによって人類が救われるか、破滅に追いやられるかは分からない」と発言したように、AI(人工知能)やロボットによる潜在的な経済効果や社会的影響については、賛否両論大きく分かれている。
「AIを最大限に活用することで、2035年までに世界の収益を平均38%向上できる」といったポジティブな可能性を支持する意見もあれば、「所得格差を今以上に拡大する」などといったネガティブな意見も聞かれる。
英国の労働組合会議TUCは、「AIやロボットの活用で、年金開始年齢を引き下げることも可能」という仮説を立てている。一方で、昨年オランダ西部ハーグにAI・ロボット研究施設を開設した国際連合 (UN)は、これらの先端技術が世界をゆるがす可能性に警告。英国の著名コラムニストは「ロボット税」の導入に言及している。
年金開始年齢を引き下げにも貢献?
英国TUCの書記長フランシス・オーグレーディー氏は、AIやロボットが労働市場にもたらす利益を期待する反面、「これによってだれが大きな恩恵を受けるのか」「労働者に公平な利益が支払われるのか」などを判断するうえで、データベースが必要である点を主張している(ガーディアン紙より )。
国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)のシニア戦略アドバイザー、イラクリ・ベリッゼ氏は、「テクノロジーの進化は対処すべき重要なリスクをともなう」と認識しており、「迅速に対応しないかぎり、社会を不安定な状態におとしいれるかも知れない」と警戒している。
しかしUNの目的はテクノロジーを安全に、有益に活かすという点にあり、けっしてテクノロジーの進化のさまたげになるような方向性を打ちだすつもりはない。
英国の著名コラムニストも懸念 対策は「ロボット税」
英国のメディア「マーケット・モグル(Market Moglu)」のコラムニスト兼機械工学者のキャンバーク・ハリック氏 は、AI技術の普及によるネガティブな影響を懸念している一人ひとりだ。
ハリック氏は、「増え続ける高齢者を支えるためには、若い労働者を増やす必要がある」のは、多くの先進国が抱えている問題だ。ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏も、いずれ社会構造自体に深刻な影響をおよぼすと述べている。
AI技術は若い労働者の役割を低コストで効率的にこなせる。それはとりもなおさず、職を奪うということでもある。
ハリック氏の予想では、低学歴・低スキル者がネガティブな影響を最も受けやすい層だ。中所得層の仕事が減る可能性も懸念されている。その結果、こうした格差がさらに拡大しないとはだれがいえるだろう。
ハリック氏は解決策のひとつとして、「ロボット税」の導入に賛成。レベルには差があるとはいえ、ロボット1台1台がなんらかの形で人間の労働者の代用を務めていることは変わりない。例えば「このロボットは人間5人分の仕事をこなす=5人分の賃金を節約している」ということになる。
ロボット税をめぐる動向
節約した労働力や賃金を監査要求事項に組み込むなどして追跡し、一定の割合を税金として徴収する。この税金は年金基金や企業による年金基金に利用する―というのがロボット税の発想だ。つまりAI・自動化を活用して都合よく労力や賃金だけを削減し、従業員や社会に貢献しないという利益主義企業をロボット税で取り締まる。
この案はEU議会法務委員会マディー・デルヴォー議員が2016年5月、EU議会に提出した、「欧州における対ロボット政策、法律をめぐる動向」という草案に基づくものだ。ビル・ゲイツ氏やノーベル賞受賞経済学者でもあるイェール大学のロバート・シラー教授も支持している。
ゲイツ氏は「例えば年収5万ドルを稼ぐ工場作業員は所得税を払っている。同じ仕事をロボットがするならば、そのロボットにも税金を課すべき」とコメントしている(CNBCより )。
EU議会は昨年2月、AI・ロボットに関する規制の必要性を認めた。開発と展開のための倫理的枠組み、自動運転車(AV)を含むAi・ロボットの行動に対する責任の確立を意図したものだ。
しかしロボットによって失業した労働者の再訓練・資金援助を目的としたロボット税の提案は拒絶した。デルヴォー議員はこれに対し、「雇用市場にネガティブな影響をあたえかねない重要な課題への取り組みを、EU議会は拒絶した」と失望をあらわにした。
一方、商業用ロボットの適切な利用を図る国際産業団体インターナショナル・フェデレーシェン・オブ・ロボティクス(IFR)は、EUの決断を賢明としている。「AI・ロボットは失業よりも新たな雇用を生みだすが、ロボット税の導入は競争力と雇用にネガティブな影響をおよぼす」と主張している(ロイターより )。
韓国で世界初のロボット関連税導入 投資の優遇措置縮小
韓国では昨年8月、世界初のロボット税導入が発表された。これはハリック氏の提案のように自動化そのものに課税するのではなく、ロボットなど自動化への投資に対する税制上の優遇措置を縮小するというものだ(コリアンタイムズ紙より )。税制優遇措置自体は2017年末に失効予定だったが、2019年まで延長する代わりに3~7%の割合を最大2ポイント引き下げる。
直接的なロボット税ではないものの、産業の自動化がかかえる課題への取り組みであることは疑う余地がない。
文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)
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