鉄(Fe)は、ほぼすべての生物が生命活動を営むうえで欠かせないものであり、酸化還元反応を繰り返しながら地球上を巡っています。
そしてこの酸化還元サイクルは、主に微生物によって行われています。
今回、理化学研究所(理研)バイオリソース研究センター微生物材料開発室の加藤 真悟氏ら研究チームは、日本の沼地から鉄の酸化と還元を両方できる微生物「MIZ03株」を新しく発見しました。
MIZ03株は中性pH条件下での酸化還元反応が可能なため、これまでの常識を覆す存在として、今後の応用に期待できるでしょう。
研究の詳細は、8月25日付の科学誌『Microbiology Spectrum』に掲載されました。
未知の鉄酸化還元微生物を探す
地球上の鉄は主に二価「Fe(II)」と三価「Fe(III)」の状態で存在しています。
同じく地球上には、鉄を酸化する微生物や鉄を還元する微生物が数多く存在しており、微生物たちによる酸化還元サイクルが成り立っています。
それらの中には、酸化と還元を両方行える微生物も存在しますが、酸性pH条件下などの極端な環境で生育する種しか知られていません。
そこで研究チームは、地球の大部分を占める「普通の中性環境」で、鉄を酸化還元できる微生物を探すことにしました。
チームが調査したのは、茨城県つくば市の湿地帯で見つけた「鉄マット」と呼ばれる酸化鉄沈殿物(18℃、pH 6.5)です。
これは鉄酸化微生物の活動の証拠であり、沼地などでよく見られます。
そして鉄マットから採取した微生物を分析したところ、既知の微生物に加え、これまで鉄を酸化させると予想されていなかった系統の微生物を発見。
研究チームは、その微生物を「MIZ03株」と名付け、試験管で培養して詳しく調査しました。
環境に応じて鉄酸化と鉄還元を使い分ける微生物を発見
MIZ03株を全ゲノム配列解読・系統分析したところ、MIZ03株はRhodoferax属に含まれる新しい微生物であると判明。
さらに、これまでRhodoferax属では鉄還元微生物しか見つかっていませんでしたが、MIZ03株は状況に応じて鉄酸化も行えると分かりました。
MIZ03株の反応は次の通りです。
酸素がある環境では、Fe(II)を酸化してエネルギーを獲得。
いわば「鉄を食べて、使い終わった電子を酸素に受け渡し」ます。
逆に酸素がない環境では、有機物をエネルギー源としてFe(III)を還元。
こちらも「有機物を食べて、使い終わった電子を鉄に受け渡している」と言えるでしょう。
いずれも中性pH条件下で行われ、酸化還元反応によってエネルギーを得たMIZ03株の増殖が確認されました。
次にRhodoferax属の中から、それらの遺伝子を両方もつ種を探しましたが、既知の培養種は見つかりませんでした。
ただし、メタゲノム解析によって解読された未培養種には両方の遺伝子をもつものを確認。
この結果は、MIZ03株以外にも、まだ培養されていない鉄酸化還元微生物が存在することを示しています。
さて今回の研究により、これまでの常識を覆す「中性pH条件下での鉄酸化還元微生物」の存在が明らかになりました。
一般的な環境で生物学的に鉄を反応させられるので、その利用価値は非常に高いと言えます。
もしかしたら将来、MIZ03株を用いて金属を回収する「生物学的製鉄炉」などが開発されるかもしれませんね。
現在、MIZ03株は各研究機関で利用できるよう整備されています。
参考文献
単独で鉄を酸化も還元もできる微生物の発見 -微生物による鉄代謝の新たな一面-
元論文
A Single Bacterium Capable of Oxidation and Reduction of Iron at Circumneutral pH
提供元・ナゾロジー
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