現在、スマホなどの小型電子機器はワイヤレスで充電できます。

そして最近、東京大学大学院工学系研究科に所属する笹谷 拓也氏ら研究チームは、スケールアップしたワイヤレス送電技術を実現しました。

部屋全体にワイヤレスで電力を送り、部屋のどこにいてもデバイスに給電できるようになったのです。

研究の詳細は、8月30日付の科学誌『Nature Electronics』に掲載されました。

目次

  1. 部屋のどこにいても電子機器を充電できる
  2. 2種類の3次元磁場によって部屋全体のワイヤレス給電を可能に!

部屋のどこにいても電子機器を充電できる

これまでのワイヤレス給電システムは、人体に有害かもしれないマイクロ波を放射したり、専用の充電パッドに電子機器を置いたりする必要がありました。

コードを挿す必要はないものの、給電範囲が極めて限られていたのです。

しかし今回開発された新システムは、給電範囲を部屋全体にスケールアップしました。

3次元磁場で室内すべての家電を「ワイヤレス給電」する部屋が実現!
(画像=3m×3m×2mの部屋全体にワイヤレス給電が可能 / Credit:笹谷 拓也(東京大学)_Room-scale magnetoquasistatic wireless power transfer using a cavity-based multimode resonator(2021)、『ナゾロジー』より引用)

3m×3m×2mの部屋全体に3次元磁場を生成することで、室内の「オールワイヤレス給電」が可能になったのです。

部屋のどこにいても、携帯電話やノートパソコンをワイヤレスで充電できます。

また体内に埋め込まれた医療機器への電力供給、家庭や施設内を移動するロボットへの電力供給が可能になるかもしれません。

3次元磁場で室内すべての家電を「ワイヤレス給電」する部屋が実現!
(画像=東京大学にあるワイヤレス給電試験室 / Credit:笹谷 拓也(東京大学)_Room-scale magnetoquasistatic wireless power transfer using a cavity-based multimode resonator(2021)、『ナゾロジー』より引用)

安全性も確保されており、実験では、連邦通信委員会(FCC)によって定められた電磁場曝露の制限値を超えることなく、どこでも50Wの送電が可能だったのとこと。

では、非常に便利に思えるオールワイヤレス給電は、どのようにして実現可能になったのでしょうか?

2種類の3次元磁場によって部屋全体のワイヤレス給電を可能に!

3次元磁場で室内すべての家電を「ワイヤレス給電」する部屋が実現!
(画像=壁の空洞に設置されるコンデンサ / Credit:笹谷 拓也(東京大学)_Room-scale magnetoquasistatic wireless power transfer using a cavity-based multimode resonator(2021)、『ナゾロジー』より引用)

今回チームが採用したのは、「マルチモード準静空洞共振器」と呼ばれる送電器構造です。

コンデンサを壁の空洞に設置することで、部屋の中に三次元の磁場を生成することが可能。

複数の磁場パターンを利用するため、広い範囲に大容量の電力を供給できます。

3次元磁場で室内すべての家電を「ワイヤレス給電」する部屋が実現!
(画像=(左)準静空洞共振器, (右)マルチモード準静空洞共振器:複数の磁場パターンにより大容量かつ効率的な電力供給が可能 / Credit:笹谷 拓也(東京大学)_Room-scale magnetoquasistatic wireless power transfer using a cavity-based multimode resonator(2021)、『ナゾロジー』より引用)

また今回のシステムでは、部屋の隅々まで安定した送電を可能にするため、2種類の3次元磁場を利用しています。

これは、磁場が円形に伝わりやすく、四角い部屋ではどうしても死角できてしまうことが理由です。

3次元磁場で室内すべての家電を「ワイヤレス給電」する部屋が実現!
(画像=2種類の磁場によって死角を無くす / Credit:笹谷 拓也(東京大学)_Room-scale magnetoquasistatic wireless power transfer using a cavity-based multimode resonator(2021)、『ナゾロジー』より引用)

部屋の中央の円を描くような磁場と、部屋の角に作られる磁場によって空間すべてをカバーしているのです。

また、笹谷氏はこの新しい給電システムの実装について、次のように語っています。

「新築時に導入するのが最も簡単ですが、後付けも可能だと思います」

現在、システムの導入テストは進んでおり、今年の秋には、新築・後付けの両パターンで導入される予定です。

研究チームによると、数年先には商業施設や住宅に導入される可能性があるとのこと。

部屋からあらゆるコードを排除し、すっきりさせる「オールワイヤレス給電」が、住宅の標準装備となる日も近いかもしれませんね。

参考文献
‘Charging room’ system powers lights, phones, laptops without wires

元論文
Room-scale magnetoquasistatic wireless power transfer using a cavity-based multimode resonator

提供元・ナゾロジー

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