社交不安症(SAD)とは、人前で話すことや目立つことに対して極度の不安や恐怖を感じる症状です。

最近、韓国・高麗大学校(Korea University)心理学部に所属するジウォン・ハー氏ら研究チームは、バーチャルリアリティ(VR)療法で、SADを改善できると発表しました。

SAD患者は「VR上で見知らぬ人と接する」経験を積むことで、自分に対して肯定的な見方ができるようになったのです。

研究の詳細は、4月14日付の学術誌『JMIR Mental Health』に掲載されました。

目次

  1. 社交不安症と暴露療法
  2. VR療法で社交不安症を改善できる

社交不安症と暴露療法

VRで社交不安症(SAD)を改善できる可能性が示される
(画像=目立つことに極度の不安や恐怖を感じる「社会不安症」 / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

社交不安症(SAD)の改善には、暴露療法(ばくろりょうほう)が用いられることがあります。

これは患者が不安や恐怖を感じる状況を実際に体験し、徐々に慣れていくための治療法です。

SAD患者の場合は医師の指導の下、人前で挨拶をするなど、緊張しやすい場面に少しずつ直面してもらったりします。

そして今回研究チームが行ったのが、VR上での暴露療法です。

現実世界ではなく仮想世界での体験が、患者にどのような影響を与えるか調査したいと考えたのです。

またSAD患者は、「自己参照処理(英文:Self-referential processing)」に偏りがあります。

自己参照処理とは、自分が何かを実践しているイメージを行う脳の処理のこと。

SAD患者は、自分に対してひどく否定的だったり、ネガティブな出来事を繰り返し考え続ける(反芻思考)傾向があるのです。

そのためチームは、VR療法の効果を判断するため、自己参照処理を司る脳領域を観察することにしました。

VR療法で社交不安症を改善できる

実験にはSAD患者25人が参加し、対照群となる健常者22人と比較されました。

まず対象者全員が自己参照処理に関する課題を行いました。

この課題では、中立・肯定・否定のいずれかの単語が提示され、それぞれの単語が自分にどの程度関連しているか選択するよう求められます。

そしてこの課題の最中、fMRIで対象者の脳活動が観察されました。

VRで社交不安症(SAD)を改善できる可能性が示される
(画像=VR上で見知らぬ人に自己紹介する / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

次に、SAD患者は6回のVR療法に参加。

彼らはVR上で、「見知らぬ人に自己紹介をする」という社交不安のシナリオを体験しました。

その結果、SAD患者は対照群と比較して、自己参照処理を司る脳領域の活性化が認められました。

さらに社交不安尺度(英文:Social Phobia Scale)のスコアが低下し、反芻思考も改善。

加えて、単語の認知を司る脳領域「舌状回(ぜつじょうかい)」に活動の変化が見られた参加者ほど、社交不安や反芻思考が改善していました。

これにより、VR療法が「肯定的な言葉を自分に関連付ける」ようサポートしたと考えられます。

今回の結果からチームは、「VR療法が社交不安症の治療に取り入れられる可能性がある」と述べました。

VRは現実ではないものの、現実に似た世界です。

この曖昧さが、対人関係の治療段階としては効果的なのかもしれませんね。

今後もVRの新しい可能性に期待したいものです。

参考文献
People with social anxiety disorder show improved symptoms and changes in brain activity following virtual reality therapy
元論文
Virtual Reality–Based Psychotherapy in Social Anxiety Disorder: fMRI Study Using a Self-Referential Task

提供元・ナゾロジー

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