現代社会では、「生産性こそが究極の目標であり、ただ楽しむだけの時間は無駄である」といった考えが広く見られます。
ところがアメリカ・オハイオ州立大学(OSU)フィッシャーカレッジオブビジネス(Fisher College of Business)に所属するセリン・マルコック氏ら研究チームは、余暇を時間の無駄だと考える人は、落ち込みやすく、ストレスを感じやすい傾向にあると発表しました。
忙しく生産的であるのは良いことですが、余暇を無駄だと感じるほど極端であってはいけないのです。
研究の詳細は、8月21日付の学術誌『Journal of Experimental Social Psychology』に掲載されました。
「余暇は無駄」だと考える人たちは、ストレスレベルが高い
ある研究では、199人の大学生が、さまざまな余暇活動をどれだけ楽しんだか評価しました。
同時にその人の幸福度、憂鬱度、不安度、ストレス度などもチェックしています。
また「余暇活動に費やす時間」についての考え方も調査しました。
その結果、「余暇は無駄である」と考える人ほど、余暇活動を楽しめていないと判明。
しかも余暇活動の性質の違い(能動的、受動的、社会的、個人的)による影響を受けませんでした。
つまり、運動やテレビ鑑賞、友人とのおしゃべり、瞑想など、それがどんな種類の余暇活動だったとしても、なにかしら時間の無駄だと感じている人は、思いっきり楽しめていなかったのです。
さらにそのように考える人ほど幸福度が低く、憂鬱だと感じていました。
加えて不安が大きく、ストレスレベルも高いと判明しています。
「楽しむことが目的の余暇活動」と「別の目的がある楽しい余暇活動」
別の研究では、302人のオンライン参加者に、ハロウィンでどんな活動を行ったか、またどれほど楽しかったか尋ねました。
その結果、余暇活動が2種類に分類されていました。
1つはパーティーに行くなど、「楽しみだけを目的としたもの」で、もう1つは、子供をトリック・オア・トリートに連れて行くなど、「責任を果たすことを目的とした楽しいもの」です。
そして「余暇は無駄が多い」と考えている人は、「楽しみだけを目的とした余暇活動」で得られる喜びや満足感が小さいと判明。
しかしそう考える人でも、「別の目的がある余暇活動」は十分楽しめていました。
生産性を重視しすぎる人は、目的のある余暇活動を見つけるべき
現在、余暇に対する否定的な見方は、世界中で見られます。
そのため人々は、「忙しく生産的であることがいかに重要か」というメッセージを何度も聞くことになります。
そして一度そうしたメッセージを取り入れてしまうと、「余暇は無駄」という考えが心に刻み込まれてしまうでしょう。
結果、どこに住んでいようとストレスを感じ、憂鬱で幸福感が薄れてしまいます。
では、既に「余暇が時間の無駄」だと感じてしまう人は、どう対処すればよいのでしょうか?
考えをすぐに方向転換させるのは難しいため、そんな自分でも楽しめる余暇活動を見つけると良いでしょう。
たとえばハロウィンのアンケートを例をとると、子どもの付き添いで出かける場合、親としての責任感が時間を無駄と感じさせなくなるという結果を示しています。
同様に、ただ散歩に出かけるのは無駄と感じる人も、それが犬の散歩なら飼い主としての責任が伴い、無駄な時間とは感じにくくなる可能性があります。
そしてこれらはどちらも、心のリフレッシュとして機能する時間になるでしょう。
また、「何らかの目的をかなえる楽しい活動」を見出すということも大切です。
「それぞれの余暇活動」と「達成したい長期的な目標」がどのように関連するか考えることで、余暇を無駄とは考えなくなるかもしれません。
資格を集めるのが趣味、みたいな人はこうした釣り合いをうまくとった結果かもしれません。
「余暇をただ楽しむ」ことは、昔から多くの人にとって当たり前のことでした。
しかし、忙しさに慣れた現代人の中には、それが難しく感じる人もいます。
そんな人は、余暇を充実した時間として過ごせるよう工夫することが「幸せの秘訣」になるかもしれません。
参考文献
Think leisure is a waste? That may not bode well for your mental health
元論文
Viewing leisure as wasteful undermines enjoyment
提供元・ナゾロジー
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