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•「磯の香り」の原因は海洋から放出される硫化ジメチル(DMS)
•新たな研究は、人為的に磯の香りを発生させる実験から、このDMSを作る原因細菌種を特定した
•さらにこの細菌が、親潮や津軽暖流など東北特有の海流に強く支配されていることを明らかにした
海を訪れたとき感じる独特の磯の香り。
この匂いは何なんだろう? と感じた人は多いのではないでしょうか。その原因は硫化ジメチル(DMS)という化学物質。海洋から大気中に放出されて、水蒸気の集まる核となって雲を生成しています。
ではこのDMSはどこから来るのでしょうか? DMSは、海藻や植物プランクトンが浸透圧を調節する際に出した物質を、海中の細菌が分解することによって発生したものです。
このように、磯の香りの大まかな原因はわかっていましたが、実際どの細菌が海中でどのように作用しているかという細かい調査は十分に行われていません。
そこで東京大学などの研究チームは、東北三陸沖で調査を行い、磯の香りの原因となる細菌種を特定した他、海流の影響で活動が変わってくるという研究成果を報告しています。
磯の香りのメカニズム
磯の香りの原因はDMSという化学物質ですが、これは海洋植物プランクトンや大型藻類が浸透圧調整物質として生成するジメチルスルホニオプロピオネート(DMSP)という化学物質が元になっています。
DMSPは海水中の微生物(細菌)に硫黄源として利用されます。
DMSが生成されると、それは大気中に放出されます。これが私たちの感じる磯の香りになりますが、このDMSは他にも水蒸気や水滴を集める核になって、海洋上に雲を作り出すという作用もしています。
このため、磯の香りは海洋の天気にも影響を与えているのです。
この細菌たちのDMSPの分解にはいくつか種類があり、DMSを生成する場合と生成しない場合があります。
この辺りの細菌の代謝活動を明らかにすることは、海洋生態系から、気候システムまで海という世界を理解する上で、重要な鍵になってくるのです。
DMSP代謝細菌はいくつかがすでに過去の研究から特定されていますが、まだ十分に調査されているわけではありません。
そこで今回の研究チームは、海洋の細菌群集が行うDMS生成などを調べるため、東北三陸沖の海水を使って人為的に植物プランクトンが急増した環境を作り実験を行ったのです。
海流で変わる細菌の活動
大型の容器に、自然の海水や湖水を入れて人為的に操作した環境を作り出し調査することを「メソコズム実験」といいます。
今回の研究は、大槌湾で採取した海水200リットルをタンクに入れて植物プランクトンを大量発生させ、10日間に渡ってDMSP、DMS濃度を測定しました。
このメソコズム実験から、研究チームはこれまで詳細が明らかではなかった、DMSを生成する細菌の遺伝子タイプや種類を特定することに成功しました。
東北の海は、北から来る冷たい海流の親潮と、南から来る温かい海流の津軽暖流がぶつかり合っています。
実験の結果を踏まえて周辺の海を調査すると、親潮域では細菌は他の化学物質と結びつけて二次的にDMSを生成する代謝を行っていましたが、津軽暖流では直接DMSを生成する細菌が活動していました。
海流によってDMSの生成を行う細菌の遺伝子タイプが棲み分けられていて、DMSの濃度にも変化を起こるとわかったのです。
DMSは海の上で雲を生成する役割も持っています。磯の香りの原因物質から、今回の結果は、大気ー海洋間でどのように物質交換が行われ雲生成のプロセスに影響するかという一端も明らかにしたのです。
こうした知見は、今後ますます大きな変動が予想される地球環境に、人類が対応する際にも指針となるだろうと期待されています。
この研究は、東京大学 大気海洋研究所、韓国生命工学研究院の研究チームより発表され、論文は科学雑誌『Frontiers in Microbiology』に7月13日付けで掲載されています。
Distribution of Dimethylsulfoniopropionate Degradation Genes Reflects Strong Water Current Dependencies in the Sanriku Coastal Region in Japan: From Mesocosm to Field Study
提供元・ナゾロジー
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