冷蔵庫は今や、どのご家庭にもある必須アイテムです。
常に電源をオンにし、食材を保存するべくノンストップで稼働しています。
冷蔵庫が食品の鮮度維持に優れている最大の理由は、低温環境を保つように設計されていることです。
これは誰でも知っていることですが、なぜ冷たい環境では食品が腐りにくくなるのでしょうか?
細菌の成長スピードを遅らせる
すべての生物には、自らが存在するのに適した温度があります。
人間はテクノロジーで守られているとはいえ、暑すぎる夏や寒すぎる冬には活動を制限されます。
バクテリアなどの微生物も同じです。彼らにも活動や成長を促進する適温があります。
私たちの身の回りにいる一般的な細菌は、37℃の環境を好みます。
このような微生物は、暑すぎず寒すぎずの中間温度(20〜45℃)を好むという意味で、中温性(mesophiles)と呼ばれています。
中温性細菌は食品を腐らせる原因であり、その代表は、アスペルギルス(カビ)、乳酸菌、ロイコノストック、ペディオコッカスなどです。
しかし、冷蔵庫の中の平均温度は4℃に保たれており、細菌が有効に働くには寒すぎます。
私たちは寒い日には、毛布をかぶってコーヒーでも飲みたくなりますが、それと同じように、細菌も生産的な活動をする気力を失うのです。
このように、低温になると細菌の成長速度は著しく低下し、倍増時間(バクテリアの数が2倍になるまでの時間)も大幅に長くなります。
それでも全く成長しないわけではありません。
それは、食品が冷蔵庫の中で永遠に保存できないことからも明らかでしょう。
菌の繁殖は止まっているのではなく、遅くなっているだけなのです。
野菜や果物の腐敗を先延ばしにする仕組み
冷蔵庫の低温環境は、細菌の繁殖を抑えるだけでなく、果物や野菜の腐敗を遅らせる効果もあります。
バナナを長く保存していると、全体に黒い斑点が浮かんできますが、これはバナナが熟しすぎているためです。
バナナをはじめとする果物や野菜は、無数の植物細胞が集まってできており、その一つ一つは丈夫な細胞壁に囲まれています。
細胞壁は多糖類から成っており、酵素によって分解されることで次第に野菜や果物が柔らかくなります。
多糖類が分解されると、実はどんどん軟らかくなり、最終的には細胞がほぼ完全に分解されて食べられなくなります。
こうした腐敗の原因となる一般的な酵素は、リパーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼなどです。
しかし温度が低いと、酵素の働きやその他の生物学的プロセスが低下し、熟成が進まなくなります。
果物や野菜を冷蔵庫に入れておくことで、食品が腐り始めるまでの時間を稼ぐことができるのです。
すべての食品は有機物ですから、いずれは腐る運命にありますが、冷蔵庫できちんと保存しておけば、最後の審判を先延ばしにすることは可能でしょう。
鮮度を保つには、冷蔵庫内の位置も大切
食品の鮮度をうまく保つには、冷蔵庫内のどこに置くかも重要です。
これは単純な物理学にもとづいており、一般に、暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下に沈みます。
冷蔵庫内の空気は全体的に冷たいとは言え、温度差はあるので、最も冷たい空気は下に、それより温度の高い空気は上に位置します。
しかし、最近の家庭用の大型冷蔵庫は、食品別に冷蔵室が分かれているものがほとんどです。
冷蔵室は約0〜6℃、野菜室は3〜9℃、冷凍室はマイナス22〜マイナス16℃となっています。
スペースが分かれていない小型冷蔵庫であれば、上段や中段に、すぐに食べられる乳製品や作り置きの食品を、下段に肉・魚、野菜類を入れておくと良いでしょう。
20世紀初めに冷蔵庫が大量生産され始めてから、雪の中に食べ物を埋めたり、寒い洞窟の中に保存したりする時代は終わりました。
また、冷蔵庫は家庭用だけでなく、化学薬品や医薬品、ワクチンなどを保存するためにも重宝されています。
冷蔵庫は今や、私たちの生活と切っても切れない存在になっているのです。
公開日:2021.08.31 TUESDAY
参考文献
Why Does Food In The Fridge Stay Fresh For Longer?
提供元・ナゾロジー
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