知能の高さに定評のあるタコについて、新たな生態が明らかになりました。
シドニー大学(University of Sydney)の研究チームは、これまでにオーストラリア沖で撮影されたタコの映像を収集し、解析。
その結果、タコは意図的に他のタコを狙って、シルト(沈泥)や貝殻を投げつけることが判明したのです。
しかも、そのほとんどが、ちょっかいを出してくるオスに対してメスが物を投げるという形でした。
研究は、8月19日付けでプレプリントリポジトリ『bioRxiv』に掲載されています。
移動のための器官を使って、ジェット噴射
研究主任のピーター・ゴドフリー・スミス氏は、2015年に、オーストラリア南東のジャービス港(Jervis Bay)近海にある「オクトポリス(Octopolis)」と呼ばれる場所で、シドニー・オクトパス(学名:Octopus tetricus)が仲間と交流する様子を撮影しました。
オクトポリスは、タコが巣を作れる数少ない砂地の海底の一つで、狭いエリアに膨大な数のタコが生息しています。
そこでスミス氏らの注意を引いたのは、彼らが「スローイング」と呼ぶ、一種の投擲(とうてき)行為でした。
タコは、シルトや藻類、貝殻などを体の下に保持した後、漏斗(ろうと、hyponome)と呼ばれる移動のための器官を使って、ジェット水流を起こし、物を相手の方へ投げつけていたのです。
漏斗は普段、鞴(ふいご)のように使われており、拡張後に一気に収縮させることで水を噴射し、タコを任意の方向に進ませます。
上図のAは漏斗を使って藻類とシルトを噴射する様子、Bはスローイングを受けた側のタコ。
Cはスローイング前、Dは漏斗(水色)でジェット噴射する様子。
これと同じジェット噴射は、一般に、巣穴を掘ったり、食事の残骸を捨てるときに使われますが、ここでは相手への投擲行動として用いられていました。
たとえば、あるメスのタコは、巣穴の近くにいたオスに向かって連続して10回もスローイングを行い、うち5回は命中しています。
また、一度だけ、タコが漏斗ではなく、触手を使って貝殻をフリスビーのように投げつけた例もあったようです。
こちらが、2015年に撮影されたスローイングの様子。
観察されたスローイングの大半は、ちょっかいを出してくるオスに対してメスが行うものでした。
これとは別に、激しいケンカの後で、相手のタコに対してではなく、何もない海中に向けて物を投げる場合もあり、これは欲求不満を解消している可能性があります。
特にオスは、メスに誘いを断られた後にこの形式のスローイングをしていました。
ふてくされて物に当たる人間の行動にも似ていますね。
他種の動物に向かってスローイングをする野生動物はたくさんいますが、同種の仲間を標的にする例は、チンパンジーを含めてほんの一握りです。
これは非常に珍しいことであり、タコの知能の高さを物語っています。
また、撮影中には、海底に設置した三脚に向かってスローイングをするタコもいたようで。
タコは内心「なに、勝手に撮ってんだよ」と思っていたのかもしれません。
参考文献
Female octopuses throw things at males that are harassing them
元論文
In the Line of Fire: Debris Throwing by Wild Octopuses
提供元・ナゾロジー
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