「ええっと」と言って言葉が止まる時、脳はフル回転していました。
7月20日、オハイオ州立大学の研究者たちにより『Scientific Rerports』に掲載された論文によれば「ええっと」と言葉が止まるときには、人間の脳において高度な機能を担当する連合野が活性化していたとのこと。
誰もが経験する「ええっと」を最新の脳科学は、どのようにしてあばいたのでしょうか?
「ええっと」というとき脳で何が起きるかを頭蓋骨をあけて確認する
人々がスピーチを行うとき、多くの場合「ええっと」や「え~」などの一時停止が含まれます。
この奇妙な一時停止現象は人種や文化・言語体系を超えて全ての人類にみられます。
しかしながら、現在まで「ええっと」が起こるとき、脳でどのような反応が起きているかは、あまり知られていませんでした。
そこで今回、オハイオ州立大学の研究者たちは、てんかんの手術を控える被験者たちの頭蓋骨を切開し、電極を脳に直接配置することで「ええっと」の謎を解明しようと試みました。
調査にあたっては、被験者たちは脳に電極を配置された状態で、目の前に特定の画像を提示され
「カバ」「水たまり」「夏」「入浴する」
という4つの言葉を入れた説明を行うように指示されました。
また提示された画像は「カバ」「水たまり」「夏」「入浴する」のどの単語とも状況が一致しにくく、被験者たちにとっては過酷な課題となります。
しかしそれこそ、研究者たちの望む状態でした。
困難な課題を前にして被験者たちの全てが「ええっと」と言葉を一時的に止めたからです。
そして研究者たちは、被験者が「ええっと」となる瞬間の、脳の活動を記録していきました。
すると、興味深い結果がみえてきました。
「ええっと」となるとき脳はフル回転していた
被験者たちが「ええっと」と言葉を止める時、脳では何が起きていたのか?
研究者たちが被験者の脳を調べた結果、語彙検索や言語作業が行われる「連合野」と呼ばれる広範な部分と視覚的な情報を処理する「視覚野」の活動が活発化していることが示されました。
この結果は「ええっと」となっている時の人間の脳は、次に話すべき言葉を無意識的に検索するとともに、視覚的な情報も同時に処理する、非常に活発な状態にある可能性を示唆します。
これは経験的な知識とも一致します。
「ええっと」は、話者が不安であったり注意散漫なときに起きますが、言葉を繋げようと言語的な努力をするときにも生じますよね。
「ええっと」には思いもよらない効果があるかもしれない
今回の研究により、「ええっと」と言葉が途切れる時に、脳は活発に語彙検索などの言語的な作業を行っている可能性が示されました。
実は先行研究では「ええっと」となる状況を意図的に作り出すことで、脳の一次感覚皮質の活動を最大化できることが示されています。
また人間の行動研究においては、話者が「ええっと」を声に出したほうが、同じ時間を無言で過ごすよりも、話者のプレゼンテーション能力が高いと評価されると報告もあります。
さらに完璧に流ちょうなスピーチと「ええっと」を含むスピーチの2つを聞かされた時、「ええっと」を含むスピーチを聞いた時のほうが、聴き手の脳の血流が良くなるとも報告されています。
これらの結果は「ええっと」の適度な運用が、話者や聴き手の脳を活性化させている可能性を示唆します。
今回の研究では「ええっと」が話者のスピーチ能力をその前後で上昇させるかどうかは調べられていませんが、脳の高度な機能にかかわる連合野が活性化していたことが判明しています。
ただの言いよどみに過ぎないと思われていた「ええっと」ですが、もしかしたらとんでもない可能性を秘めているかもしれません。
提供元・ナゾロジー
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