17世紀を代表するオランダの天才画家、ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer・1632-1675)。

彼の傑作の一つである『窓辺で手紙を読む女』(1657〜1659年頃)の修復作業がこのほど完了しました。

本作は、1979年のX線スキャン調査の際、背景の壁に”画中画”が隠されていることが分かっていました。

2018年から約3年の月日をかけて修復した結果、塗りつぶされていたキューピッドの立像画の復元に成功したとのことです。

修復作業は、本作を所蔵するドレスデン国立古典絵画館(アルテ・マイスター絵画館)により行われています。

目次

  1. 数世紀を経て蘇った「キューピッドの立像」
  2. 女性が読んでいたのは「ラブレター」だった?

数世紀を経て蘇った「キューピッドの立像」

フェルメールは、写実的な描写力と緻密な空間構成、そして光を用いた質感表現において、その天才性を発揮しました。

代表作に、『真珠の耳飾りの少女』や『天文学者』があり、歴史の教科書などで一度は目にしたことがあるでしょう。

フェルメールの名画『窓辺で手紙を読む女』に隠された真の姿が修復される
(画像=『真珠の耳飾りの少女』1665年頃、マウリッツハイス美術館所蔵 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)
フェルメールの名画『窓辺で手紙を読む女』に隠された真の姿が修復される
(画像=『天文学者』1668年頃、ルーヴル美術館所蔵 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

『窓辺で手紙を読む女』も彼の傑作の一つです。

開け放たれた窓から光が差し込む室内に、手紙を読む女性が描かれています。

先述したように、1979年のX線調査で”画の中の画”が隠されていること分かりましたが、長年の間、その画を消したのはフェルメール本人だと考えられていました。

ところが、2017年の再調査により、フェルメールではない何者かの手で塗りつぶされたことが新たに発覚したのです。

フェルメールの名画『窓辺で手紙を読む女』に隠された真の姿が修復される
(画像=修復前の『窓辺で手紙を読む女』1659年頃、アルテ・マイスター絵画館所蔵 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

そのため、翌年の2018年から上塗り層を取り除く修復が開始されました。

作業は、顕微鏡で確認しながらメスや綿棒を用いて、慎重に行われています。

およそ3年の修復作業の結果、弓矢を手にしたキューピッドの立像を復元することに成功しました。

目の前の地面には仮面が二つ転がっており、キューピッドはそのうちの一つを踏みつけています。

フェルメールの名画『窓辺で手紙を読む女』に隠された真の姿が修復される
(画像=修復後 / Credit: ancient-origins – Mysterious Cupid Found Hidden in 17th Century Vermeer Masterpiece(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

こうして、フェルメールが描いた真の『窓辺で手紙を読む女』が、数世紀の時を経て、現代に蘇りました。

また、同絵画館のオールドマスター絵画・彫刻コレクションのディレクターであるステファン・コジャ(Stephan Koja)氏は「これまでは、作中の女性がどんな内容の手紙を読んでいるのか、分かりませんでした。

しかし、キューピッドの復元により、フェルメールが本作で描こうとした真の意図が見えてきた」と話します。

それは一体、何なのでしょう。

そして、誰が何のためにキューピッドを隠したのでしょうか。

女性が読んでいたのは「ラブレター」だった?

『窓辺で手紙を読む女』については、多くの専門家により多様な解釈がなされています。

その一部を紹介すると、開かれた窓は「女性が自分の置かれている環境から脱出したいという願望である」とか、ベッドの上にこぼれた果物は「性的暗示や不倫関係の象徴」などと言われています。

また、女性が光から目を逸らしてうつむき、頬を紅潮させていることから、「神への罪悪から目を背けている」と主張されています。

こうした解釈を見ると、本作からはかなりネガティブな印象を受けますね。

しかし、コジャ氏は「キューピッドが復元されたことで、本作の意味は大きく一変する」と言います。

フェルメールの名画『窓辺で手紙を読む女』に隠された真の姿が修復される
(画像=修復前(左)と修復後(右) / Credit: ancient-origins – Mysterious Cupid Found Hidden in 17th Century Vermeer Masterpiece(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

キューピッド(Cupid)は、ローマ神話で愛や恋の神のシンボルです。(ギリシャ神話ではエロースに当たる)

構図の中に「愛の神」を配置したことで、偽装や偽善を乗り越える誠実な愛の証しとして捉え直すことができます。

この解釈に沿って見ると、女性が読んでいる手紙は、想いを寄せる男性から送られてきたラブレターで間違いないとのこと。

また、キューピッドの前にある2つの仮面は、過去の時点における男性への恋愛感情の否定。

それをキューピッドが踏みつけているということは、女性は今、男性に心からの愛情と恋慕を抱いているということです。

コジャ氏は「フェルメールは本作の中で、人間存在についての根本的な疑問を投げかけている。

この絵は、表向きの愛の意味合いを超えて、真実の愛についての本質的な主張をしているのではないか」と指摘します。

その一方で、キューピッドを隠した人物や、その意図は明らかになっていません

美術史家らは「作品をより収益性の高いものにするためのオーバーペインティングではないか」と推測しています。

比較的無名だったフェルメールの絵からキューピッドのモチーフを取り除くことで、当時の美術商は、本作をレンブラントのように、より著名な画家の作品と偽ることができたのかもしれません。

実際、『窓辺で手紙を読む女』は、1742年にポーランド王のアウグスト3世が、レンブラントの作品であるという嘘の鑑定のもと本作を購入し、ドレスデンにあった自身の美術品コレクションに収蔵しています。

この絵がフェルメールの作と判明したのは、19世紀後半のことでした。

今では、フェルメールの現存する35作品における傑作の一つとして数えられています。

本作は、来月10日から来年の1月2日まで、ドレスデン国立古典絵画館で展示予定で、その後、1月22日〜4月3日まで、東京都美術館で公開されます(「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」)。

所蔵館以外で展示は、世界初とのことです。

参考文献
Mysterious Cupid Found Hidden in 17th Century Vermeer Masterpiece

A Cupid is found hidden in Vermeer masterpiece exposed after X-rays of ‘Girl Reading a Letter at an Open Window’ revealed painted-over figure

提供元・ナゾロジー

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