ヒトを含む哺乳類の睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠という2つの状で構成されています。

筑波大学などの研究チームは、特殊な顕微鏡で睡眠中のマウスの脳内を直接観察できる技術を確立。レム睡眠中に毛細血管の血流が増大していることを発見したと報告しています。

これは、脳がレム睡眠中に活発な物質交換を行ってリフレッシュしていたことを意味しています。

この事実は、睡眠中にレム睡眠の割合が少ない人は、認知症リスクが高まる可能性も示唆しています。

研究の詳細は、科学雑誌『Cell Reports』に8月17日付で掲載されています。

目次

  1. ノンレム睡眠とレム睡眠
  2. 明らかになるレム睡眠の健康効果

ノンレム睡眠とレム睡眠

脳はレム睡眠中にリフレッシュしていた! レム睡眠が少ないと認知症リスクが高くなる
(画像=睡眠周期を表したグラフ / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

人の睡眠には深い眠りと浅い眠りの周期が存在していて、それぞれをノンレム睡眠とレム睡眠と呼びます。

ノンレム睡眠は深い眠りのことを指し、これまでの研究から、成長ホルモンの分泌が上昇したり、ストレスホルモンの分泌が抑えられるなど、脳や身体の回復に寄与していることがわかっています。

一方、レム睡眠は浅い睡眠状態を指し、夢を見ているのもこのレム睡眠のときですが、この状態が心身の健康維持にどう役立っているのかは、あまり良くわかっていませんでした。

ところが近年、レム睡眠時間の割合が少ない人は、認知症の発症リスクや死亡リスクが高いということが多く報告されるようになりました。

このため、レム睡眠は認知症発症と何らかの関連性を持っているのではないか? と指摘されるようになったのです。

脳機能維持において重要な役割を担っているのは、毛細血管の血流による栄養や老廃物の物質交換です。

そこで、今回の研究チームは、組織深部を直接観測できる二光子励起顕微鏡(⻑い波⻑のレーザー光を用いる顕微鏡)を利用して、睡眠中のマウスの脳の血流を観測することにしました。

そして世界で初めて睡眠中の動物の脳における毛細血管中の赤血球の流れを直接観測することに成功したのです。

明らかになるレム睡眠の健康効果

脳はレム睡眠中にリフレッシュしていた! レム睡眠が少ないと認知症リスクが高くなる
(画像=眠っているマウス / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

観測の結果、マウスの大脳皮質のさまざまな領野で、毛細血管へと流入する赤血球数が大幅に上昇していることがわかりました。

脳毛細血管の赤血球数は、覚醒して活発に運動している時と、深いノンレム睡眠中で特に違いがなかったにもかかわらず、レム睡眠中は2倍近くも増加していたのです。

これは、レム睡眠は脳の血流が活発になっていることを意味していて、それは大脳皮質の神経細胞の物質交換が活発に行われていることを意味しています。

先に述べたように、脳の機能維持において、毛細血管を介した酸素や栄養の供給と、二酸化炭素や老廃物の回収という物質交換は非常に重要な役割を担っています。

今回の結果は、レム睡眠の時間が少ないと、脳では活発な物質交換が行われなくなることを示唆しています。

レム睡眠やノンレム睡眠の時間は、よく90分周期といわれていますが、実際これにはかなり個人差があります。

そのためレム睡眠が短い人は脳の機能低下や老化の進行が早くなり、認知症リスクも高くなると考えられるのです。

脳はレム睡眠中にリフレッシュしていた! レム睡眠が少ないと認知症リスクが高くなる
(画像=レム睡眠中の毛細血管の血流の大幅な上昇が確認された / Credit:筑波大学,レム睡眠中の毛細血管の血流の大幅な上昇を発見(2021)、『ナゾロジー』より 引用)

また、今回の研究では、レム睡眠中の毛細血管の血流上昇には、カフェインの標的物質として知られるアデノシン受容体が重要であることも明らかになりました。

アデノシン受容体の一部の遺伝子が欠損したマウスは、レム睡眠中の血流がほとんど上昇しなかったのです。

まだカフェインによって睡眠中の脳に、どのような影響があるか明確ではありません。

しかしカフェインはアデノシン受容体の働きを阻害する物質であるため、脳機能の維持になんらかの問題を及ぼす可能性もあります。

研究者は今後のその詳細も明らかにしたいと述べています。

今回の研究から、レム睡眠が脳の機能低下や認知症の予防に重要であることが示されました。

これはレム睡眠の割合を効果的に増やす行動療法や、睡眠薬が、脳機能を高め、新しい認知症治療の開発にも役立つ可能性を示唆しています。

睡眠とは、ただ眠るだけでは不十分だったようです。

認知症発症リスクや死亡リスクの低下につながっているなら、人間は安眠するために全力を尽くさないといけないかもしれません。


参考文献

睡眠中の脳のリフレッシュ機構を解明

元論文

Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2a receptors


提供元・ナゾロジー

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