贅を極めるラグジュアリー産業も、昨今では社会的責任を果たすことが強く求められ、環境負荷に配慮したSDGsへの取り組みを無視できなくなっている。時計業界でも光発電ムーヴメントの開発、フェアな生産・流通過程を経た貴金属の採用、環境保護団体へのサポートといった試みが行われている。
その流れのなかでパネライが発表した新作は、ちょっとユニークなテーマを投げかけたものだ。“ルミノール マリーナ eSteel”は、一見したところいつものベーシックなルミノール マリーナに見える。しかし、このモデル、実は総重量の58.4%に当たる素材をリサイクルで賄っているのだ。
まず外装で目を引くのはエッジのシャープさだ。ケースのキワがしっかり立っており、ヘアラインの処理も念の入ったきめ細かな加工がなされている。ケースと文字盤に使われているのは、リサイクルベースの素材から生まれた新合金“eSteel”だが、“リサイクル素材は安っぽいのではないか?”という不安は、実物を見てみればすぐに払拭される。そもそもステンレススチールは再生が容易な素材であり、きちんとした精錬過程を経ていれば、素材が鉄鉱石だろうと廃材だろうと質にはあまり関係ない。パネライとしてもこの素材のイメージを一歩推し進めるために、相当気合を入れたプロダクトということが感じられる。
文字盤も深みのあるトーンで色のノリも良く美しい。しかも文字盤上部から下部にかけて徐々にトーンが濃くなるグラデーションになっており、この深みが神秘的な魅力をアピールしている。もともとパネライはイタリア海軍の潜水部隊用に開発された時計ゆえ、このモデルにも海洋環境保全というコンセプトがある。その深海のトーンを文字盤に反映させてうまく表現している。右側にデイト表示、左側にスモールセコンドが配置されており、ルミノールらしくシンプルでわかりやすいデザインだ。
ストラップにもリサイクルPET素材を採用している。ムーヴメントは3日間のパワーリザーブを備えたP.9010を採用。このムーヴメントは時針のみを1時間ずつ動かすこともでき、時刻合わせがしやすいと評価が高いことでも知られる。見た目の通り堅牢な設計で防水性能は300m。大振りなリューズプロテクターもルミノールらしく頼もしいが、そのぶん操作は若干の慣れが必要かもしれない。このリューズプロテクターのレバー部分にも“eSteel”ロゴが入っているのはちょっとかわいい。
カラーリングはブルー、グレー、グリーンの3種がチョイスできるが、個人的には深みのあるグレーのトーンが美しいと感じられた。サステナビリティを配慮しつつも、製品クオリティは妥協せず、むしろ質感を確実に上げてきたパネライのアイディアは非常にスマートであり、時計業界に投げかけたメッセージも大きい。そうした意味でも、今後の同社の動向にはさらに注視していきたい。
【問い合わせ先】
オフィチーネ パネライ TEL.0120-18-7110
構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎笠井 修/提供元・Watch LIFE NEWS
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