左腕を骨折して動かせないとき、右腕だけで筋トレをしたらどうなるでしょう。
ふつうに考えれば、右腕だけ鍛えられ、動かしていない左腕の筋力は落ちると思われます。
ところが、ある方法で筋トレをすれば、片方の運動だけでもう片方の筋力もアップすることが判明しました。
その方法とは「エキセントリック運動」です。
一体、どんな方法なのでしょうか。
研究は、昨年の9月8日付けで『Scandinavian Journal of Medicine and Sports Science』に掲載されています。
動かしていない腕が鍛えられる「魔法の筋トレ」とは?
「コンセントリック運動」と「エキセントリック運動」
上腕二頭筋、いわゆる「力こぶ」を鍛える方法として、よくダンベルが使われます。
ダンベルを上げる動作では、ヒジを曲げた状態になるので力こぶの筋肉は収縮します。
この筋肉が縮む方向の動きが「コンセントリック運動」です。
反対に、ダンベルを下ろす動作では、ヒジを伸ばす状態になるので筋肉は伸長します。
この筋肉が伸びる方向の動きが「エキセントリック運動」です。
これまでの研究で、エキセントリック運動の方が、様々な面で効果が高いことが証明されています。
片方の腕の筋トレだけで両腕の筋肉量がアップ!
そこでエディスコーワン大学(オーストラリア)の研究チームは、片方の腕だけの筋トレが、もう片方の腕に与える影響を調べるため、ある実験を行いました。
30人の被験者を対象に、4週間にわたって片方の腕を1日あたり8時間固定して動かせない状態にします。
被験者は3つのグループに分けられ、1組目は「筋トレをしない」、2組目は「コンセントリックとエキセントリックを組み合わせた筋トレ(いわば、ふつうの筋トレ)」、3組目が「エキセントリックのみの筋トレ」です。
エキセントリックのみでは、ダンベルを下げる動作は自分で行い、上げる動作は第3者に手伝ってもらいます。
その結果、筋トレした腕では、1組目で効果なし(筋肉量のプラマイ0)、2組目で13.7%増、3組目で21.4%増となりました。
エキセントリック運動が一番効くという、予想通りの結果が得られています。
一方、固定した腕では、1組目で21.7%減、2組目で効果なし、3組目で12.7%増となりました。
なんとエキセントリック運動をすると、動かしていない腕の筋肉量も増えていたのです。
また、ふつうの筋トレでも、筋力の衰えを防ぐことはできています。
なぜ動かしていない腕の筋力が増えるのか?
実は、その詳しいメカニズムはまだ解明されていません。
しかし、研究チームの野坂和則教授は「筋トレしているときの脳の働きが関係している」と仮説を立てます。
例えば、右腕でダンベルを持ち上げると、それに対応する左脳のある領域が活性化します。
すると、左脳に対応する右脳の同じ領域も働き、似たような信号を左腕に送ることで実際の筋力アップに繋がっているというのです。
この筋トレ方法は、片腕をケガして動かせないときや、脳卒中患者のリハビリに有効です。
脳卒中を起こすと、半身がマヒ状態に陥ることがあります。
従来のリハビリでは、マヒした側の腕を無理に動かそうとするものが多く、過度なストレスを課すものでした。
しかし、今回の結果から、元気な方の腕だけ筋トレをすれば、マヒした腕の筋力も自然と増加することが期待されます。
それにより、マヒ症状の回復もぐっと早まるかもしれません。
参考文献
scitechdaily
提供元・ナゾロジー
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