スーパーやコンビニの商品棚、ネットショッピングのサイトを見ると、「99円」とか「2980円」などの端数価格が目立ちます。

これは「100円」や「3000円」といった切りの良い値段よりも、消費者が「お買い得に感じる」ためです。

ところが最近、アメリカ・オハイオ州立大学(OSU)フィッシャーカレッジオブビジネス(Fisher College of Business)に所属するキム・ジュンハ氏ら研究チームは、マーケティングの常識である端数価格にはデメリットがあると発表しました。

実験では、端数価格が「アップグレード商品の購入を妨げる」という結果が出たのです。

研究の詳細は、8月25日付の学術誌『Journal of Consumer Research』に掲載されました。

目次

  1. 端数価格のデメリット
  2. コーヒーのビッグサイズは購入させるには、スモールサイズを端数価格にすべきではない
  3. 端数価格が「アップグレード商品をより高い」と思わせる

端数価格のデメリット

端数価格の心理トリック「イチキュッパ」にはデメリットがあった
(画像=端数価格は安いと思わせるが、デメリットもある / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

端数価格は商品そのものを「より安い」と認識させるため、消費者の購買意欲を向上させます。

「1万円」の商品よりも、1万円未満で購入できる「9800円」の商品が好まれるのです。

ところが研究チームによると、端数価格には質や量が向上する「アップグレード商品」の購入をためらわせるデメリット効果がある、と考えられるとのこと。

つまり、以下の値段設定の場合、

  • 「9800円の通常商品」と「1万1800円のアップグレード商品」が並ぶ
  • 「1万円の通常商品」と「1万2000円のアップグレード商品」が並ぶ

よりアップグレード商品が購入されやすいのは、後者だというのです。

この効果を確かめるため、チームはコーヒーやフェイスマスク、ストリーミングサービス、車、アパートなどを対象に、7つの異なる実験を行いました。

コーヒーのビッグサイズは購入させるには、スモールサイズを端数価格にすべきではない

端数価格の心理トリック「イチキュッパ」にはデメリットがあった
(画像=コーヒーが端数価格で販売されると、アップグレード版はあまり購入されなかった / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

ここでは、1つの実験をご紹介します。

オハイオ州立大学のキャンパス内にコーヒースタンドが2日間設置され、価格が定期的に変更されました。

価格は次の2パターンです。

①スモールサイズ:0.95ドル、ラージサイズ:1.20ドル
②スモールサイズ:1.00ドル、ラージサイズ:1.25ドル

①と②は1時間ごとに交互に変更され、それぞれラージサイズが購入された割合と全体の売り上げを比較しました。

その結果、①の価格設定では客の29%がラージサイズを購入しましたが、②の価格設定では、56%がラージサイズを購入。

これにより全体の売り上げも②の方が高くなりました。

端数価格にしない方がアップグレード商品の購入率が増加し、結果として売り上げの増加につながったのです。

ちなみに同様の効果は、その他の実験や、複数のアップグレードオプションがある「大きな買い物」でも発揮されたとのこと。

では、端数価格にしないことでアップグレード商品が購入されやすくなるのは、なぜでしょうか?

端数価格が「アップグレード商品をより高い」と思わせる

端数価格がアップグレード商品の購入を妨げるのは、「アップグレード商品をより高く感じさせるから」とのこと。

元値が9800円の場合、1万2000円のアップグレード商品を購入するには、「1万円の境界線」を超えなければいけません。

この「しきい」がアップグレード商品をより高く、遠いものに思わせるのです。

端数価格の心理トリック「イチキュッパ」にはデメリットがあった
(画像=端数価格商品の場合、アップグレードさせるには、しきいを超えなければいけない / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは、「州の境界を超えると目的地がより遠くに感じられる、という研究結果があります」と述べており、旅行などの他の分野でも同様の効果が見られると指摘。

確かに私たちも、実際の距離は変わらないとしても、県内よりも県外に出かける方が遠く、ハードルが高いように感じますね。

とはいえ、今回の効果が発生しないケースもあります。

例えば、高価な商品が対象の場合、小さな価格差では効果が薄いようです。

また「普段から頻繁にホテルを利用するする人」など、特定のサービスや商品に慣れ親しんでいる人には、効果がありません。

価格に精通している人は感覚に頼らないため、影響を受けることがないのです。

さて、今回の結果はアップグレード商品を扱う販売者にとって非常に有用な情報となるでしょう。

そして消費者にとっては、「値札を見たときの感覚に騙されないように」という注意喚起となりました。

文・大倉康弘/提供元・ナゾロジー

参考文献
Ending prices with “.99” can backfire on sellers

元論文
The Threshold-Crossing Effect: Just-Below Pricing Discourages Consumers to Upgrade

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