いくら低金利の住宅ローンがあったとしても、審査に落ちてしまったら意味がない。住宅ローンの審査に通るか否かは金融機関や保証会社の判断に委ねられている。ただ事前の準備や申し込み条件次第で審査に通りやすくすることもできる。住宅ローンに申し込む前に住宅ローンの審査を通す方法を確認しておこう。
住宅ローンの審査を通すための方法を理解する
住宅ローンの審査ではきちんと返済できる人なのかどうかなど、さまざまな観点からチェックされる。
住宅ローンの借り入れ可能額の審査は実際よりも厳しい金利で行われる
住宅ローンの借り入れ可能額の審査は、実際に適用される金利よりも高い「審査金利」で行われる。審査金利とは返済期間中に金利が上昇したとしても返済が滞らないよう、余裕をもたせて設定されるものだ。
住宅ローンの審査金利は金融機関によって異なり、一般には公表されていない。審査を通す金利の目安は銀行系の住宅ローンでは3~4%が相場とされている。例外としてフラット35は返済期間中に金利が変動しないので、余裕を見込む必要はなく適用金利と同じ金利で審査が行われる。
金利が違えばそのほかの条件が同じでも借り入れ可能額には差が生じる。この差を考慮せず適用金利で計算した借り入れ可能額をもとに申し込むと、審査に落ちてしまう可能性が高いのだ。借り入れ条件と借り入れ可能額をシミュレーションしてみよう。(※住宅金融支援機構・ローンシミュレータを用いて筆者試算)
【借り入れ条件】
- 年収700万円
- 返済期間25年・全期間固定金利・元利均等返済・ボーナス返済なし
- 返済比率(年収に占める住宅ローン返済額の割合):35%
【借り入れ可能額(概算)】
金利1%……5,417万円
金利4%……3,867万円
住宅ローン審査を通すために参考にしたい項目
金融機関が住宅ローン審査でどのような項目をみているのだろうか。2019年に国土交通省が民間金融機関を対象に実施した調査結果を紹介する。
【融資を行うときに考慮する項目】
割合の高い項目順に「健康状態(98.6%)」「借入時年齢(98.3%)」「完済時年齢(97.7%)」「担保評価(97.2%)」「勤続年数(95.7%)」「年収(95.6%)」と続く。
ほとんどの金融機関では団体信用保険(以下、団信)の加入を融資条件としており、加入できる健康状態や年齢であることが求められる。住宅ローンの返済が不能となった場合に備え、担保となる物件の評価額が融資判断に影響する金融機関も多い。収入については高いほうが有利といえるが、安定性や年収に占める年間返済額の割合(融資率)も重視される傾向だ。
住宅ローンの審査では年収よりも年収に占める年間返済額の割合(返済負担率)を重視
同じ借り入れ額であれば年収が高いに越したことはないが、いくら年収が高くてもそれ以上に借り入れ額が多ければ住宅ローンの審査には通りにくい。
フラット35の場合、返済負担率は年収400万円未満であれば30%以下、年収400万円以上であれば35%以下であることが要件になっている。
物件の担保評価額が借り入れ希望額を下回っていると審査に通りにくくなる場合もある
物件の担保評価額が借り入れ希望額を下回っていると、物件を売却しても融資を回収できないリスクが高くなる。金融機関はリスクの高い融資には慎重になるため、住宅ローンの審査にはマイナスだ。
現行の建築基準法に適合していない建物や建築制限などのある土地、借地権がついた土地などは担保評価が低くなりやすい。住宅ローンの審査を通すためには、このような土地や建物はなるべく避けるのが賢明だ。
住宅ローンの審査を通す方法として個人信用情報も重要な判断材料となる
住宅ローンの審査では個人信用情報(以下、信用情報)も重要な判断材料である。個人信用情報とは、借り入れやクレジット契約といった信用取引の利用・返済の履歴、残高など情報のことを指す。
金融機関は指定信用情報機関(CIC、JICC、KSCの3つ)に登録されている信用情報を照会し、きちんと住宅ローンを返済できる人であるかを判断する。
信用情報に返済遅延や自己破産といった履歴があると住宅ローンの審査に通るのは難しい。スマホ本体代金の割賦契約(分割払い)や奨学金の返済なども信用取引にあたり、これらの未納・延滞が原因で住宅ローンの審査に落ちてしまうケースもある。
短期間に何回も融資を申し込むと住宅ローンの審査にマイナスとなることも
信用情報には金融機関などが信用情報を照会した記録が残る。短期間のうちに複数の照会履歴があると、金融機関がほかで審査に落ちているのではないかという懸念を抱き、審査に影響する恐れがある。住宅ローンの審査に通るか不安でも、手当たり次第にローンを申し込むのは避けたほうがよい。
団信に加入できない健康状態の人が住宅ローンの審査を通すための方法
団信に加入できない健康状態の人は、団信加入が融資条件となっている住宅ローンの審査には通らない。この場合はフラット35など「団信加入が融資条件ではない住宅ローン」、あるいは「加入条件の緩いワイド団信が利用できる住宅ローン」を選択すれば審査に通りやすくなる。
ただし団信に未加入の場合は、万一の際に家族に住宅ローンの負担が残ってしまうリスクがあるうえ、ワイド団信には金利の上乗せによる負担増というデメリットもある。病歴があっても病の程度や完治してからの期間によって通常の団信に加入できるケースも多い。あくまで通常の団信に加入できなかった場合に検討すべき方法と考えたほうがいい。
年齢要件に引っかかる人が住宅ローンの審査を通すための方法
借り入れ時と完済時の年齢は通常住宅ローンの要項に基準が明記されており、これを満たしていなければ住宅ローンの審査に通らない。完済時の年齢は要件を満たすように借り入れ期間を設定すればよい。ただし借り入れ期間が短くなれば月々の返済額は大きくなってしまう。
住宅ローンを通すための方法として「親子リレー返済」を利用する
住宅ローンの返済負担を抑えるために借り入れ期間を長く設定したい、あるいは借り入れ時の年齢が要件を満たしていない場合には、「親子リレー返済」を利用する方法がある。
親子リレー返済とは、子どもなど一定の条件を満たす人を後継者に指定し、2世代で住宅ローンを返済する方法だ。親子リレー返済では後継者の年齢を基準に借り入れ期間を算出するため、住宅ローンの借り入れ期間を長く設定できる。本人が年齢要件を満たしていなくても住宅ローンを組めるといったメリットもある。
【後継者の要件(フラット35・新機構団信の場合)】
- 申込者本人の子・孫など(直系卑属)またはその配偶者で定期的な収入のある人
- 申込時の年齢が満70歳未満の人
- 連帯債務者になる人(1名のみ)
【親(65歳2ヵ月)・後継者(30歳2ヵ月)の場合の例】
親子リレー返済を利用しない場合の借り入れ期間:80歳-66歳=14年(最長)
親子リレー返済を利用する場合の最長借り入れ期間:80歳-31歳=49年→35年(最長※)
※フラット35の借り入れ期間の上限である35年を超えるため、この場合は35年である
親子リレー返済では住宅ローンの返済義務のある後継者に十分な理解を得ておく
親子リレー返済で団信に加入できるのは連帯債務者(本人と後継者)いずれか一方のみ(新機構団信の場合)。団信に加入している人が亡くなった場合には住宅ローン残高全額が弁済されるが、加入していない人が亡くなってもローンはそのまま残ってしまう。
一般的には子どもが団信に加入するケースが多いが、親が急に亡くなってしまうと子供に大きな負担を残してしまう可能性がある。
年収や担保評価の低い人が住宅ローンの審査を通すための方法
年収や担保評価の低い人が住宅ローンの審査を通すには以下のような5つの方法がある。
住宅ローンの審査に通す方法(1)……借り入れ希望額を下げて申し込む
年収や担保評価に対して借り入れ希望額が過大だと審査には通りにくい。自己資金(頭金)を増やしたり、購入する物件を見直したりして借り入れ希望額を下げれば、住宅ローンの審査に通りやすくなる。
住宅ローンの審査に通す方法(2)……購入価格の1~2割程度の頭金を入れる
最近では頭金なしのフルローンなども一般的になっている。しかし住宅ローンの審査では、購入価格の1~2割程度の頭金を入れたほうがプラスに評価される可能性が高い。頭金の割合によって適用金利に差がある商品では、頭金を入れたほうが金利面でも有利だ。
【フラット35の適用金利(2019年12月・最多金利)】
- 融資率9割以下(頭金割合1割以上)……年1.210%
融資率9割超(頭金割合1割未満)……年1.470%
そうはいうものの資金の多くを頭金に充ててしまうと、教育資金や急な出費などの資金が不足してしまう恐れがある。自己資金があってもあえて頭金とせず手元に残しておく場合は、金融機関にその旨を伝えておけば一定の配慮も期待できる。
借り入れ額が減れば住宅ローン控除額が減る点も注意したい(住宅ローン控除額=年末時点の住宅ローン残高×1%)。住宅ローンが低金利の状況下では頭金を抑えて手元に資金を残しておき、控除期間終了後に繰り上げ返済を行うほうが負担の減るケースも多い。
頭金の割合は収入や借り入れ額、借り入れ金利などからシミュレーションすることで、負担が最も少なくなるように調整することが望ましい。
住宅ローンの審査に通す方法(3)……収入合算で住宅ローンに申し込む
住宅ローンの借り入れ額が同じであれば、収入を増やすことで返済負担率が下がり審査に通りやすくなる。しかし収入をすぐに増やすことは難しいだろう。そこで選択肢となるのが「収入合算」という方法だ。
収入合算とは、夫婦や親子など一定の要件を満たす人の収入を申込者本人の収入に合算し、その合算額をもとに審査を行う方法のこと。申込形態によって「連帯保証」「連帯債務」「ペアローン」の3つのパターンがある。
・連帯保証
収入合算を行うため収入合算者が連帯保証人となる形態である。連帯保証では、収入合算者が債務者(借り入れ人)や物件の名義人にならなくても収入合算ができる。
収入合算者は債務者とほぼ同じ返済義務を負う一方で、団信は適用されず住宅ローン控除も受けられないといったデメリットもある。
・連帯債務
収入合算を行うため夫婦や親子のそれぞれが債務者(連帯債務者)となる形態である。各連帯債務者が借り入れ額の全額について返済義務を負う。
連帯債務者がそれぞれ物件の名義人となって持ち分(所有権)を持つため、両方が住宅ローン控除の適用を受けられる。夫婦とも比較的収入の多い共働き世帯など、世帯全体での控除額を増やせるメリットが期待できる。団信は連帯保証と同様に主債務者のみに適用される。
・ペアローン
1つの物件に夫婦などがそれぞれ2つの住宅ローンを組む形態である。3,000万円の借り入れを行うため、夫が2,000万円、妻が1,000万円の住宅ローンを組むようなケースをいう。金融機関によって申込人それぞれ個別または収入を合算して審査する場合がある。
住宅ローンの契約が2本になるため、借り入れ額や返済期間も個別に設定でき、団信や住宅ローン控除もそれぞれの借り入れ額に対して適用される。ただし契約手数料も2本分が必要である。
住宅ローンの審査に通す方法(4)……他の借り入れを減らす
返済負担率は申込者のすべての借り入れ返済額をもとに計算される。マイカーローンやカードローン、奨学金など、住宅ローン以外の借り入れ金があるとその分だけ借り入れ可能額は少なくなる。
住宅ローンの審査を通すためには他の借り入れはなるべく減らしておくほうがよい。住宅ローンは他のローンに比べて金利が低いため、手元に資金があるならば他のローンを優先して返済したほうが利息負担も少なくて済む。
住宅ローンの審査に通す方法(5)……キャッシング枠を減らす
クレジットカードやカードローンなどのキャッシング枠は、実際に利用していなくても上限額まで借り入れがあるものとみなされ借り入れ可能額を圧迫する。利用していないクレジットカードは解約するかキャッシング枠の上限を下げておくのが賢明だ。
収入の安定性に不安のある人が住宅ローンの審査を通すための方法
勤続年数の短い人や自営業・フリーランス・非正規雇用の人などは、収入自体は問題なくても安定性の面で住宅ローンの審査に落ちやすい。このような人は返済負担率のみで審査を行うフラット35などを利用するほうが住宅ローンの審査に通りやすくなる。
信用情報に不安のある人が住宅ローンの審査を通すための方法
信用情報に自己破産や民事再生、ローンやクレジットの延滞などの履歴があると住宅ローンの審査を通すのは難しくなる。信用情報は5年または10年(下表)の登録期間経過後に削除される。履歴が残ってしまった場合には履歴が削除されるまで待って申し込むのが確実だ。
登録情報 | 登録機関 | ||
CIC | JICC | KSC | |
ローンなどの新規申し込みにおける 支払能力調査のため照会した事実に関する情報 |
照会日から6ヵ月間 | ||
ローンやクレジットカード等の 契約内容とその返済情報の履歴 |
契約期間中および 契約終了後5年以内 |
||
破産・民事再生手続き開始決定等に関する情報 | 契約期間中および 契約終了後5年以内 |
決定日から 10年以内 |
自分の信用情報の内容は、各個人信用情報機関に開示請求を行うことで確認できる。住宅ローンの審査を申し込む前に確認しておくとよいだろう。開示請求は郵送やインターネットで行える。手数料は1,000円程度だ。
【開示請求先】
CIC(https://www.cic.co.jp/mydata/index.html)
JICC(https://www.jicc.co.jp/kaiji/)
KSC(https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/open/)
住宅ローンの審査を通すために申し込み前に返済計画に無理がないか確認する
銀行はお金を貸すのが仕事であり、きちんと返済ができると判断した人には融資したいと思っている。住宅ローンの審査に落ちるということは、金融機関が返済できないリスクが高いと判断したということだ。住宅ローンの審査を通すことも重要であるが、返済計画や購入するタイミング、物件などに無理がないか、よく確認したうえで申し込んでほしい。
文・竹国弘城(ファイナンシャル・プランナー)
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