point
- 演奏者と聴き手の精神は同期することがわかった
- また同期レベルを測定することで、その演奏曲がどれくらい人気が出るかを事前に調べられるようになった
私たちが音楽を楽しんでいると、脳では報酬に関連する脳領域の活動が増加し、快楽が発生しています。
また最近の研究によって、同じ音楽を演奏したり、楽しんでいる人たちの脳は互いに共鳴し合い、同じ脳の区域を活性化させていることがわかっています。
しかし現在におけるまで、演奏家と聴き手の間の垣根を超えた、脳活動について調べた研究は存在しませんでした。
そこで今回、研究者たちは、バイオリンの演奏者と聴き手の間に神経同期が行われているかを調べることにしました。
もし同期が行われているなら、演奏者の精神と聴き手の精神は共鳴し、共通の歓喜、共通の精神的光景を生みだしている証拠になります。
それはつまり、古くから音楽だけが持つと言われている、精神の直接的伝達能力が科学的に証明されるということなのです。
果たして、演奏者と聴き手の脳(精神)は、音楽を通して一体化することができるのでしょうか?
研究内容は華東師範大学のYingying Hou氏らによってまとめられ、5月1日に学術雑誌「NeuroImage」に掲載される予定です。
The averaged inter-brain coherence between the audience and a violinist predicts the popularity of violin performance
演奏者と聴き手は、共に脳のリズム機能とミラー機能を活性化させていた
仮説(演奏者の聴き手の脳は同期する)を確かめるために、研究者たちはまず、演奏中の演奏者の脳の活動量を機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いて記録しました。
続いて、聴き手に録画された演奏を聞かせ、聴き手の脳の活動量も同じように機能的近赤外分光分析法(fNIRS)で調べ、双方を比較しました。
結果、演奏者と聴き手の双方において、2つの脳機能が同じように共鳴して活性化していることがわかりました。
活性化された一つ目の機能は、音楽からリズムを取り出す働きをする働きでです。
そして二つ目の機能は、ミラーシステムと呼ばれる神経系統でした。
ミラーシステムとは、20世紀における神経分野の最大の発見と言われているもので、人間は他人が行っている行動を、自分が行っているように感じることができる仕組みです。
このミラーシステムのお陰で、人々は映画のヒーローを自分に重ねることができる他、自分がギタリストやピアニストになって、好きな音楽を演奏するという妄想を行うことも可能になります。
今回の実験でミラーシステムの働きが演奏者と聴き手の双方で活発化したということは、音楽を聴くことで聴き手は自分の姿を演奏者に重ね、演奏者は演奏することで自分を聴き手に重ねていることを意味します。
このことから、音楽は演奏者と聴き手の脳(精神)を、双方が相手になり切ることで、一体化していると結論付けられます。
脳活動を測定して、人気が出る曲を発売前に予想する
今回、聴き手は脳の活性を測定すると同時に、どの演奏をどれだけ気に入ったかについても、7段階で評価してもらいました。
その結果、聴き手が演奏に高評価を下すのは、演奏者と聴き手の左側頭皮質が同時に強く活性化している時だということがわかりました。
この結果が本当なら、ある演奏曲が世間に出回って人気が出るかどうかを、テストグループを使うことで事前に判断可能になります。
またこの技術が商業音楽世界で普及すれば、販売前であっても、営業リソースを集中する有望な新曲を決定できるようになるはずです。
もしかしたら未来の世界では、どの曲が売りに出されるかは、機械による一元化された脳活動の測定によって決まるのかもしれませんね。
提供元・ナゾロジー
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