多くの専門家は、毎日約2L(グラス8杯分)の水を飲むことを推奨しています。
ところが過去の研究によると、多くの人はこの目標を達成できていません。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)に所属するナタリア・ドミトリエバ氏ら研究チームは、私たちが水分補給に努めるべき理由を明らかにしました。
中年の人々が十分に水を飲む習慣をもっているなら、高齢者になったときの心不全リスクを低下させられるのです。
研究の詳細は、8月24日付の欧州心臓病学会の年次会議(ESC Congress 2021)のプレスリリースに掲載されており、27~30日に開催される本会議で発表されます。
※すでに心不全を発症している方は、逆に水分を制限しなければいけない場合があります。
血清ナトリウム濃度で十分に水分補給できているか分かる
1日の水分摂取量の推奨値は、女性で1.6~2.1L、男性で2~3Lなどと言われており、いくらか幅があります。
では実際に、個々の人が十分に水分を補給できているかどうかは、どのように判断できるのでしょうか?
ここで役に立つのが、血清ナトリウム濃度です。
これは血液中に含まれるナトリウムの量を表したものであり、水分摂取量が少ないほど、血清ナトリウム濃度も上昇。
つまり血清ナトリウム濃度を測ることで、水分補給の状態を正確に知ることができるのです。
さて慢性的な水分不足は、さまざまな健康問題だけでなく心不全とも関連しているようです。
体が水を節約しようとした結果、心不全の発症リスクを増大させるのです。
そこで研究チームは、水分補給の尺度である血清ナトリウム濃度と心不全発症の関連性を調べることにしました。
25年にわたる調査によって「十分な水分補給が心不全のリスクを低下させる」と判明
今回の研究では、1万5792人の成人を対象に調査を実施。
参加者は募集時に44~66歳の中年期であり、その後25年にわたって70~90歳になるまで5回の調査で評価されました。
彼らは最初の3年間で実施された1回目と2回目の診察時に、平均血清ナトリウム濃度に応じて4つのグループ(135〜139.5、140〜141.5、142〜143.5、144〜146mmol/L)に分けられました。
そして5回目(25年後)の診察時に、心不全や左心室肥大を発症した人の割合を分析。
その結果、中年期の血清ナトリウム濃度の高さが、高齢期(25年後)の心不全と左心室肥大発症の両方に関連していると判明しました。
中年期の血清ナトリウム濃度が142mmol/Lを超えているなら、その値が1mmol/L増えるごとに、高齢期の左心室肥大と心不全のリスクが増大していたのです。
ちなみに心不全発症に関連する他の因子(年齢、血圧、肝機能、血中コレステロール、血糖値、肥満度、性別、喫煙)を調整しても、この関連性は維持されていたとのこと。
ドミトリエバ氏が結論づけているように、生涯を通して水分を十分に摂取することが、心不全や左心室肥大のリスクを低下させると分かります。
やはり将来の健康のためにも、推奨されている1日8杯の水を意識した方が良いのでしょう。
また今回提出された「血清ナトリウム濃度142mmol/L」という値は、今後の健康診断において「水分不足の基準」として役立つかもしれません。
参考文献
Super Simple: Drinking Enough Water Could Prevent Heart Failure
Are YOU getting your recommended eight glasses in a day? Drinking sufficient water can prevent or slow heart failure, study finds
元論文
Drinking sufficient water could prevent heart failure
提供元・ナゾロジー
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