目次

  1. ポジティブとネガティブは「似たもの」
  2. マズローのピーク体験と原体験
意義のある人生は「極端な経験」で手に入る
(画像=pixabay、『ナゾロジー』より引用)

Point

■「意義ある人生」を送る上で重要なのは、ポジティブであれネガティブであれ「極端な経験」をすること

■これまでの研究では、ポジティブな経験とネガティブな経験は対立するものとして捉えられていたが、新たな研究ではそれらを「同種のもの」として考える

■人間が「ホラー映画を観る」などの経験を喜んでおこなうのは、積極的にネガティブな経験をすることで、人生の意義を高めようとしていることが考えられる

「意義ある人生」とは一体どういったものを指すのでしょうか?

この難問に対して、これまで研究者たちは、人生における「ネガティブな経験とポジティブな経験のバランス」に焦点を当てて研究をおこなってきました。

しかし、メルボルン大学の研究者らによる新たな研究が、そうしたバランスよりも、ネガティブであれポジティブであれ、人生で「感情的に極端な経験」をしたかどうかがカギを握っていることを示しています。

Emotionally extreme life experiences are more meaningful

ポジティブとネガティブは「似たもの」

これまで「ポジティブな感情」に焦点を当ててきた研究の多くが、生活の中でポジティブな経験が多い人ほど、人生に意味を見出しやすいといった結論を出しています。

それとは対照的に、「意義のある人生を作る」といった点にフォーカスした研究の多くは、ストレスフルなイベント、すなわち「ネガティブな感情」に対処した経験が多いほど、意義のある人生を作っていけると結論づけています。

意義のある人生は「極端な経験」で手に入る
(画像=pixabay、『ナゾロジー』より引用)

これら2つの分野は、互いに独立した研究対象としてみなされてきたため、意義ある人生を歩む上で、「ポジティブな感情」と「ネガティブな感情」のうちどちらが重要であるのかといった答えを出すことは非常に困難でした。

しかし新たな研究で試みられたのは、まったく新しいアプローチです。「ポジティブな感情」と「ネガティブな感情」が、必ずしも対立するものではないと主張しています。意義ある人生に対しては、両者は似た役割を果たしているというのです。

注目すべきは両者のバランスではなく、ポジティブであれネガティブであれ、どれほど極端な感情を経験したのかが大事になるといいます。

マズローのピーク体験と原体験

研究者たちはこのアイデアについて検証するため、人々が経験した最も極端な出来事についてのレポートを集め、その経験が人生に与えた意義について調査しました。

その結果、彼らの予想通り、それが喜ばしいものであれ痛みを伴うものであれ、「極端な経験」が、人々にとって最も意味のある経験であったことが分かったのです。

この結果を踏まえれば、人間は自分の人生に大きな意味を与えるために、積極的に不快な感情を経験しようとしていることも考えられます。

では極端な経験とは一体何なのでしょうか。

意義のある人生は「極端な経験」で手に入る
(画像=pixabay、『ナゾロジー』より引用)

2013年に発表された研究では、ホラー映画を観ること、悲しい音楽を聴くこと、辛い食べ物を食べること、ジェットコースターに乗ることなどが、人々の喜びを大きく増加させることを示しています。

また、50年以上前にアブラハム・マズローは「ピーク体験(peak experiences)」の重要性について説いています。彼がエキサイティングで至高な体験であると語るその体験は、逆境の克服がトリガーとなり得ることが指摘されています。

つまり極端な経験とは、ポジティブ・ネガティブにかかわらず、「心の底からわき起こる強い感情を伴う経験」といえるでしょう。

大きな仕事を成し遂げる時、よく「原体験が必要だ」といわれます。そのきっかけは喜びだけでなく、怒りや悲しみであることもしばしば。しかしそれらは、作ろうとして作れるものではありません。大切なのは、新しい経験を怖がらず、その際に起きた自分の中の強い感情を封印せずに認識することなのです。今回の「極端な経験」も、そのような心構えが必要だと考えられます。

ピーク体験のような極端な経験は、「私たちが何者であるのか」といったことの理解を深めるために役に立つものでもあります。最期の時に人生を振り返る折、ポジティブであれネガティブであれ、いかに自分が生涯で感情を動かされたかによって、人が本当の意味で「生きた」かどうかが決まるのかもしれません。

提供元・ナゾロジー

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