和牛は海外でも「Wagyu」と訳され、今や世界的にも有名な肉です。
和牛が美味しいのは、霜降りと表現される独特の脂肪の付き方にあり、それが豊かな風味と溶けるような食感を生み出しています。
これまでこの複雑な霜降りを、培養肉で再現することは困難でした。
しかし、大阪大学をはじめとした研究チームは、和牛肉の複雑な組織構造を3Dプリントで再現することに成功。
世界人口の増加や気候変動から懸念される食糧危機に備えた、新しい技術を開発しました。
研究の詳細は、科学雑誌『Nature Communications』に8月24日付で公開されています。
未来の安定した美味しいお肉の供給
日本では人口減少が問題にされていますが、世界全体で見た場合、人類の人口は増加傾向にあります。
世界人口は2050年には97億に達すると予想されています。
また、これまで貧しかった国も発展していけば食生活が向上していきます。
こうなると世界規模で、食用肉の消費が増加し、タンパク質需要の急増に対して供給が追いつかないというタンパク質危機(プロテインクライシス)が起きる懸念があります。
食用肉の生産には、家畜の飼育が必要ですが、これには大量の穀物や水の消費、広大な放牧地確保のための森林伐採、また家畜が出す糞尿やゲップによるメタンガスの増加(メタンガスはオゾン層破壊にもつながる)、という環境問題がつきまといます。
地球温暖化にともなう気候変動の進行を考えると、食肉が今後の世界で安定的に供給できるかは、かなり不安なところです。
そこで注目されているのが、培養肉です。
培養肉は、動物から取り出した少量の細胞を培養に寄って人工的に増やして作った肉です。
これは2013年ころから本格的に研究が進められていて、現在は実用化に向けたペンチャー企業が世界中で設立されています。
しかし、研究で報告されている培養肉はほとんどが筋繊維(赤身)のみで構築されるミンチ様の肉であり、複雑な組織構造をもった例えば霜降り和牛のような肉は、再現できていません。
食は人の心の豊かさにもつながる重要なものです。
未来の食事が培養肉に依存することになるなら、胃袋だけでなく舌や目も満足させる培養肉を生み出せなければならないでしょう。
そこで今回の研究チームが挑戦したのが、和牛の霜降りを再現するということだったのです。
和牛の魅力 サシの再現
和牛のような、いわゆる霜降り肉には、赤身の間にまばらに脂肪が入り込んでいます。
このような脂肪のことを「サシ」と呼びます。
このサシが、和牛独特の豊かな風味やとろける食感を生み出す要因です。
これは筋・脂肪・血管という異なる繊維構造が重なった複雑なもので、これまで培養肉ではその組織構造を再現することは困難でした。
しかし今回の研究は、そんな和牛肉の組織構造を3Dプリントを使って再現させました。
研究では筋・脂肪・血管の繊維組織ファイバーを3Dプリンターで作成して束ねていくことで、金太郎飴のような方法で和牛肉の構造を作製したのです。
筋・脂肪・血管の繊維組織で構成された和牛培養肉を構築したのは、これが世界で初めてです。
この新たに開発された「3Dプリント金太郎飴技術」によって、今後は肉の複雑な組織構造をオーダーメイドで作れるようになったのです。
画像はまだ実験段階なので若干気持ち悪いですが、この技術は脂肪や筋成分の微妙な調節もできるようになると期待されていて、いずれは和牛の美しいサシも、再現できるようになるでしょう。
将来的には培養プロセスも含めた自動装置を開発し、場所を問わずにいつでも自在に高級な肉を出力することも期待できるとのこと。
そうなれば、まさに夢の製品です。
バーベキューしている横で、次々と霜降り和牛が3Dプリントされて出てくる、という未来も近いのかもしれません。
参考文献
3Dプリントで和牛の“サシ”まで再現可能に!
First 3D-bioprinted structured Wagyu beef-like meat
元論文
Engineered whole cut meat-like tissue by the assembly of cell fibers using tendon-gel integrated bioprinting
提供元・ナゾロジー
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