脳と内臓脂肪は神経でつながっていました。
8月18日にポルトガルのシャンパリモー未知センターの研究者たちによって『Nature』に掲載された論文によれば、脳と内臓脂肪が神経によってつながり「脳脂肪回路」を形成していたことが、世界ではじめて示されました。
どうやら内臓脂肪に効果的に働きかけるには、単なるエネルギー収支だけでなく、脳を説得する手順も必要なようです。
しかし、いったいどうして脳は内臓脂肪を管理しているのでしょうか?
脳は内臓脂肪に直通回線を引いている
肥満において最も危険な脂肪は内臓脂肪です。
臓器を包む内臓脂肪は、適度な量ならば臓器の働きをサポートしますが、多すぎれば体の害になるほどの余分なタンパク質やホルモンを作りはじめるからです。
さらにこの余分なタンパク質やホルモンは、13種類のがんの発生率を引き上げ、心臓と血管にかかわる死因を増加させることが知られています。
肥満による健康悪化を防ぐには、内臓脂肪をいかに減らすかがカギとなっているのです。
そのためこれまで多くの研究者たちによって、内臓脂肪が調べられてきました。
結果、内臓脂肪には脂肪細胞だけでなく神経線維も含まれていると判明。
しかしなぜ内臓脂肪に神経が接続されているのか、そしてどこから伸びてきている神経なのかは、不明なままでした。
そこで今回、ポルトガルのシャンパリモー未知センターの研究者たちはマウスの性腺周辺の内臓脂肪に、光るように設計されたアデノ随伴ウイルスと仮性狂犬病ウイルスを感染させました。
ウイルスの感染が広がれば内臓脂肪に刺さっている神経を遡って、上流の神経に光が到達して接続元を突き止められると考えたのです。
結果、内臓脂肪に伸びていた神経(交感神経)は最終的に、脳の視床下部と最も緊密に接続していることが判明します。
これまで筋肉を制御する運動神経や腸の神経が脳とつながっていることが判明していましたが、内臓脂肪と脳がダイレクトにリンクしていることが判明したのは、世界ではじめてです。
そうなってくると気になるのが、脳はどんな用があって内臓脂肪に直通回線を引いているかです。
神経シグナルは間葉細胞の翻訳をへて免疫細胞と脂肪細胞に伝達される
なぜ脳は動きのない内臓脂肪に神経を伸ばしているのか?
ナゾを解くため、研究者たちはマウスの性腺周辺の内臓脂肪に存在する物質を網羅的に探索しました。
すると、神経から発せられた信号が間葉細胞を経て免疫細胞(ILC2)の活性を調節し、内臓脂肪の代謝を制御していることが判明します。
この結果は、性腺周辺の内臓脂肪では、神経細胞と免疫細胞は直接会話できないものの、間葉細胞の翻訳を経て連絡し合っていることを示します。
つまり、神経細胞→間葉細胞→免疫細胞→脂肪細胞という一連の流れが示されたことになります。
脳から内臓脂肪に通じる経路が明らかになったことで研究者たちは、将来的には全く新しい脂肪燃焼方法をアンロックできると考えています。
脳から発せられる脂肪の燃焼指令を偽造する
今回の研究で脳と内臓脂肪を結ぶ経路が明らかになりました。
脳は間葉細胞と免疫細胞という2つのクッションを経て、脂肪細胞の燃焼や蓄積を制御していたようです。
内臓脂肪の代謝制御を行う「脳脂肪回路」が判明したことは、肥満治療において画期的と言えます。
具体的には、脳が発する燃焼指令を偽造することができれば、運動を必要とせずに危険な内臓脂肪だけを落とすことが可能になる「究極のやせ薬」ができるかもしれません。
もしかしたら将来の肥満治療は、運動や節食ではなく、完全にやせ薬メインとなっているのではないでしょうか。
参考文献
A Never-Before-Seen System For Burning ‘Deep Fat’ Has Been Found in Mouse Studies
元論文
Neuro-mesenchymal units control ILC2 and obesity via a brain–adipose circuit
提供元・ナゾロジー
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