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- ・ビールの起源については、信頼性のある考古学的証拠が見つからないため明確になっていない
・新しい研究は、穀物が麦芽へ変換される過程で見られる細胞壁の薄化に着目
・粉砕などの処理を受けても残るこの痕跡から、ビールが作られた年代を特定している
暑い日が続いてくると、仕事の後には冷えた生ビールが欲しくなりますね。画像を見てるだけで飲みたくなる人も多いのではないでしょうか。
一方、「ビールの良さはよくわかんない…」という人も多く見かけます。
確かに初見でビールを美味しいと感じる人は、ほとんどいないでしょう。ハマるまでには時間を要する、クセのあるこの飲み物を人類が飲み始めたのは、一体いつからなのでしょう?
アルコールなどビールの化学成分は長く保存されないため、これまで人類がいつからビールを飲んでいたかという明確な証拠は見つかっていませんでした。
しかし、新しい研究は穀物の細胞構造からこの問題を明らかにできるとしています。
人類はいつからビールを楽しむようになったのか、その謎を追ってみましょう。
古代文明の記録
ビールは大麦から作られます。そのため、ビールの起源も人類が狩猟中心の生活を捨てて、農耕を初めた時代からだと考えられます。
ビールにまつわる最も古い記録は、紀元前約4000~3000年前にシュメール人が残した粘土板「モニュマン・ブルー」の中から見つかっています。
ここには杵を使って麦を砕くビールづくりの様子が描かれているのです。
このためビールには5千年近い歴史がある、というのが通説になっています。ただ、メソポタミアのビールに関しては情報が少なく、完全にこの事実を裏付ける証拠が存在するわけではありません。
人類がビールを飲んでいたという事実を裏付けるには、化学的な証拠を発見する必要があります。
そこで研究者たちが着目したのが、ビールの製造工程で現れる大麦の変化でした。
ビールの製造工程
ビールの製造では、まずは原料の大麦を分解されやすい麦芽(モルト)の状態へ加工する「麦芽づくり」が行われます。
この「麦芽づくり」の工程で穀物の種子は、細胞壁が侵食されて非常に薄い状態になります。これはビールづくりの工程で見つかる重要な特徴です。
今回の研究が注目したのは、この穀物細胞壁の薄化でした。
研究者たちは、数千年前に加工された麦芽からでも細胞壁の薄化が見られるかどうかを調べるために、まずは麦芽を砕いてかまどで焼き、どのように痕跡が残るかを調べました。
このサンプルから得られたパターンの結果を踏まえて、古代エジプト(紀元前4000年ころ)の醸造所から見つかった陶製の桶に残る黒焦げのカスを走査型顕微鏡で観察してみました。
すると、実験室の麦芽に見られたのと同様の細胞壁の薄化パターンを発見することが出来たのです。
これは、化学的な成分が失われた太古の異物からでもビール製造の証拠を発見できることを示した最初の事例です。
続いて研究者たちは、ドイツのボーデン湖近くの後期新石器時代の集落(紀元前3910年ころ)の遺跡も調査しました。
ここにはビール製造を行っていたことを示すものは何も見つかっていませんでしたが、穀物の残留物からは、細胞壁の薄化パターンが発見されました。
これは中央ヨーロッパで「麦芽づくり」を行っていたもっとも古い証拠になると研究者は考えています。
このサンプルに見られるひび割れには、乾燥した液体の特性が見られ、研究たちはこれがビールだったのではないかと疑っています。
ただ、この調査では発酵までの過程を明確に確認できていないため、麦芽が単にパンやお粥のような麦芽化された食品であった可能性もあります。
しかし、すでに5000年以上前のヨーロッパでビールが作られていた可能性はかなり高いと考えられます。
ビールは現在も世界でもっとも多くの人に飲まれているお酒です。
そんな昔から人類に愛飲されていたとなると、やめられないのも仕方がないですね。
この研究は、オーストリア科学アカデミーの考古学研究チームより発表され、論文は幅広い科学分野の一次研究論文を扱うオープンアクセスの査読付き学術雑誌『PLOS ONEに5月7日付で掲載されています。
提供元・ナゾロジー
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