怒れるハチは良い毒を持つ?
ハチの毒は、パーキンソン病や変形性関節症といった変性疾患や感染症の治療に使われています。
オーストラリア・カーティン大学(Curtin University)は今回、ハチ毒の質が、行動・生態的要因によっていかに変化するかを調査。
その結果、怒ったハチほど、質の高い毒をつくり出すことが明らかになりました。
研究は、6月30日付けで学術誌『PLOS ONE』に掲載されています。
怒れるハチほど、毒の質が高くなる
研究チームは、オーストラリア南西部の町ハーヴェイ(Harvey)近郊に設置されている計25個の飼育バチの巣箱を対象に調査しました。
同地は、西オーストラリアにのみ分布するユーカリの一種、「マリー(学名:Corymbia calophylla)」の木が自生する場所です。
飼育されているセイヨウミツバチは、マリーの花から蜜を集めてハチミツをつくります。
チームは、2020年1月21日〜3月6日にかけて、それぞれの巣箱のハチから毒を採取し、中に含まれるタンパク質を分析。
その結果、セイヨウミツバチの毒には、合計で99種類のタンパク質が含まれていることが特定されました。
そのうちの約3分の1は以前に同定されたものでした。
ハチ毒は、含まれるタンパク質の数が多ければ多いほど、毒の品質と効果が高くなります。

また、ハチ毒のタンパク質に影響する要因を探るべく、チームは、それぞれの巣箱に刺激を与えるデバイスを設置。
すると興味深いことに、デバイスに対し攻撃的に反応した、いわゆる「怒ったハチ」ほど、タンパク質がより豊富で密度の高い毒を生成したのです。
反対に、デバイスに対し消極的な反応を示した、「おとなしいハチ」は、毒中のタンパク質の生成量が低いことが分かりました。
研究主任のダニエラ・スカッカバロッツィ(Daniela Scaccabarozzi)氏は、これについて「毒のタンパク質の生成量は、警報フェロモンの分泌に依存していると考えられます。
警報フェロモンとは、ハチに刺激を与えて積極的に針を刺すように誘引する化学物質のこと。
これは、ハチに攻撃性を誘発する遺伝子変化の結果であり、警報フェロモンのおかげで、毒の質も上がっているのでしょう」と説明します。
また、「怒り」以外にもハチ毒の質にかかわる要因がありました。
毒の品質には「温度」も重要
研究チームは、環境の「温度」がハチ毒のタンパク質組成に影響を与えることを発見しました。
気温があまりに高いと、ハチのコロニー内外での活動に悪影響が出ます。
そして、25個の巣箱を調べたところ、気温が高すぎる場所ではハチ毒の分泌量が少なくなっていたのです。
スカッカバロッツィ氏は「これは、季節的要因がハチ毒のタンパク質生成に変化をもたらす、という私たちの予想に合致するものでした。
また、高タンパク質が生成される最適な範囲は、摂氏33〜36度となっていました」と話します。
この他にも、地理的な条件や、ハチが食べた花の成長段階なども毒の生成に影響する可能性が示唆されました。
ハチ毒は今や、1グラムあたり300ドルもの高値で取引される収益性の高い商品です。
その中で、今回の研究成果は、より少ない量で品質と効果の高いハチ毒を得るための大きな助けとなるでしょう。
ハチ毒の質を高めることで、ますます高まる医療分野での需要にも対応できるようになるかもしれません。
参考文献
Angry bees produce better venom
Feisty bees make more potent venom, which makes for better medicine
元論文
Factors driving the compositional diversity of Apis mellifera bee venom from a Corymbia calophylla (marri) ecosystem, Southwestern Australia
提供元・ナゾロジー
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