雨上がりの晴れた日、アスファルトの上で死んで干からびているミミズを見たことがある人は多いでしょう。
11月10日にプレリリースされ『Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences』に掲載される論文によれば、この「ミミズの自殺」現象はアスファルトの上だけでなく川でも起きており、溺死するミミズはウナギにとって主食になっているとのこと。
何気ない風景だと思っていた「ミミズの自殺」は思ったよりもスケールが大きな生態系を支える現象のだったようです。
しかし、いったいどうして雨でミミズの自殺が起きるのでしょうか?
ミミズの自殺はアスファルトの上だけでなく川でも起こる
アスファルト上での「ミミズの自殺」が起きる原因は、一説によれば雨で溺れるのを避けるためだとか、雨によって地面が湿っているうちに遠くに移動するためだと言われています。
ですがどの説にも反証があり(例えばアマゾンのミミズは水中でも生きられる)、決定的な理由はわかっていません。
ただいずれにしても、ミミズにとって保水力のないアスファルトの存在は予期せぬ障害であり、雨上がりと同時に自殺の原因になってしまいます。
一方、日本のとある研究者は、このミミズの自殺がアスファルトの上だけでなく、河川でも起きていることを発見しました。
雨に誘発されて土の中から這い出たミミズにとって、捕食者が待ち構える河川はアスファルトと同じく危険な場所。研究者たちはこの河川に落下したミミズが、その生態系にどのような影響を与えるのか調査することにしたとのこと。
古くから行われている、川に棲む魚やウナギの胃の内容物の調査により、ミミズがエサとして食べていることは判明しています。今回の研究ではエサ全体におけるミミズの割合や降雨量との長期的な関係を明らかにしたかったのです。
そこで研究者たちは3年間の長期に渡り、捕えたウナギの胃の内容物を解剖して調べ続けるという、過酷な調査に乗り出します。
ウナギにとって入水自殺したミミズは主食になる
毎日のように天然物の二ホンウナギを捕らえ、解剖を繰り返す研究者たち。
解剖後の検体がその後どうなったかは論文には書かれていませんでしたが、学術的には非常に興味深い結果が得られました。
上の図では採取された天然ウナギのサイズごとの胃の内容物(赤がミミズ)が示されてます。
図からわかるように、ミミズはウナギ(特にサイズの小さいもの)にとって、最大の主食となっていました。
どうやら豊かな自然に囲まれた天然ウナギは、ミミズを食べて大きくなっているようです。
しかし胃の内容物の調査だけでは、雨との関係がわかりませんでした。
ミミズの入水自殺も雨の後に発生する
そこで研究者たちは、雨からの日数及び降雨量と、胃に含まれていたミミズの量を、年間を通して調べました。
結果、上の左の図が示すように、ウナギのミミズ捕食は春・夏・秋の3シーズンを通して見られ、いずれの場合も降雨直後に最も多くなっていることが判明。
この結果は、雨に起因する「ミミズの自殺」が河川でも発生しており、ウナギのエサ供給源になっていることを示します。
また右の図では降雨の有無ではなく、降雨の絶対量との関係が示されており、夏の降雨量の増加が、ミミズの摂取量を著しく増加させることを示しています。
どうやらミミズの入水自殺は年間を通して起こるものの、夏だけは降水量との関連性があることが判明しました。
岸が工事されるとウナギはミミズを食べられなくなる
今回の研究によって、降雨後のミミズの自殺がウナギの有力なエサ供給源であることがわかりました。
アスファルト上で起こるミミズの自殺の習性が、自然界では河川の生態系(ウナギの食)を支えていたのです。
一方で、岸をコンクリートで固める工事や埋め立てが、ミミズとウナギの重要な関係を断ち切っている事実も明らかになりました。
上の図では、コンクリートで岸を固められた河川に住むウナギは、ミミズを食べられておらず、主食が二枚貝に変化している事実を示しています。
食料の歪みは生物に大きな影響を与え、自然な成長にも影響する可能性があります。
研究者たちは今後もミミズの河川への流入を調べ、ウナギ以外の捕食者との関係を解き明かしていくとのことです。
ミミズのような小さな生き物でも、生態系を支える重要な役割を任されているんですね。
参考文献
神戸大学
kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2020_11_10_01.html
提供元・ナゾロジー
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