丈夫な体を持つ甲虫の中で、最強クラスの防御力を持つ虫がアメリカにいます。

「ディアボリカル・アイアンクラッド・ビートル(悪魔の鋼鉄甲虫)」と呼ばれる昆虫です。

わずか2センチほどの体長ながら、天敵に捕食されることはほぼありません。体が頑丈すぎて、噛むことも飲み込むこともできないからです。

アメリカ・カリフォルニア大学の研究チームは、この頑丈さの秘密を解明するため、外骨格の構造をナノスケールで詳しく調べました。

その結果、2枚の前翅(昆虫の前部の翅)が互いにくっついて、インターロッキング式に組み合わさっていたことが判明しています。

この研究は、10月21日付けで『Nature』に掲載されました。

目次

  1. 自重の約3万9000倍の重さに耐えられる!
  2. 翅がパズルのような「インターロッキング式」になっていた

自重の約3万9000倍の重さに耐えられる!

クルマにひかれても平気な「悪魔の甲虫」の”頑丈さのひみつ”とは?
(画像=「ディアボリカル・アイアンクラッド・ビートル」 / Credit: David Kisailus / UCI、『ナゾロジー』より引用)

”悪魔の甲虫”は、アメリカ南西部に分布し、岩の下や木の中といった窮屈な場所に生息します。これも頑丈な体が必要な理由のひとつです。

この甲虫は、ずっと昔に飛翔能力を失っており、前翅がくっついて盾のようになっています。

驚くのは、この小さな虫が車にひかれても平然としていることです。

そこで研究チームは、甲虫の耐久力を調べるため、ラボ内で圧縮テストを実施しました。

その結果、なんと自重の約3万9000倍の重さに耐えられることが判明したのです。

研究主任のデイビッド・キサイラス氏は「飛んで逃げることができないので、捕食者が食べるのを諦めるような鋼鉄の体を発達させたのでしょう」と話します。

翅がパズルのような「インターロッキング式」になっていた

頑丈さの秘密は、外骨格、特に前翅が固くなってキチン質化した「鞘翅(しょうし)」の構造にありました。

空を飛ぶカブトムシなどの鞘翅は、乾燥や細菌から内側の柔らかい翼を保護するために発達しています。ところが、この甲虫の鞘翅は、相互にくっついて、強固なプロテクターの役割を果たしています。

クルマにひかれても平気な「悪魔の甲虫」の”頑丈さのひみつ”とは?
(画像=一般的な鞘翅(茶色の前翅部分) / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

分析の結果、甲虫の鞘翅は、キチン質・繊維状物質・基質タンパク質から成っており、外層はタンパク質濃度が他の甲虫よりはるかに高く、これが頑丈さの一因となっています。

また、鞘翅の接合部を調べると、パズルのピースが噛み合うような「インターロッキング式」になっていました。

クルマにひかれても平気な「悪魔の甲虫」の”頑丈さのひみつ”とは?
(画像=鞘翅の接合部が「インターロッキング式」に / Credit: Jesus Rivera / UCI、『ナゾロジー』より引用)

さらに、X線を用いて圧縮中の構造変化をリアルタイムで調べてみると、パズルのような接合部は、圧力に応じて固く組み合わさるのではなく、ゆっくりと剥離して衝撃を和らげ、壊滅的なダメージを受けないようにしていたのです。

チームは、得られたデータを用いて同様の構造を3Dプリントしたところ、高い強度と耐久性が実証されています。

クルマにひかれても平気な「悪魔の甲虫」の”頑丈さのひみつ”とは?
(画像=圧力を受けると接合部を解離させていた / Credit: nature、『ナゾロジー』より引用)

キサイラス氏は「この構造や生物学的システムを応用すれば、より強固な人工材料を開発することも可能でしょう」と指摘しました。

インターロッキング構造の実現により、ネジや留め具を使わない頑丈な自動車や建造物の開発も期待されています。

参考文献
uci

livescience

scitechdaily

提供元・ナゾロジー

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