最近、「死者から採取した網膜幹細胞をサルの目に移植する」という衝撃的な研究が行われました。
この研究は、アメリカ・マウントサイナイ医学大学の細胞生物学者ティモシー・ブレンキンソップ氏ら研究チームによって行われ、1月14日付の科学誌『Stem Cell Reports』に掲載されました。
彼らの報告によると、移植された細胞は網膜色素上皮に発達し、数か月安定した状態を維持したとのこと。
この結果は、世界中の何百万もの失明患者を治療するのに役立つかもしれません。
失明に至る網膜細胞の機能低下
現在、世界の約2億人が黄斑変性症(おうはんへんせいしょう)を患っています。
これは加齢によって生じやすい目の病気で、ものが歪んで見えたり視界の中心が欠けたりするとのこと。
また進行することで失明に至る場合もあるため、注意が必要な病気だと言われています。
そして黄斑変性症の原因は、網膜色素上皮(もうまくしきそじょうひ)の機能低下にあります。
網膜色素上皮とは網膜の外側にあるシート状の細胞層であり、網膜から栄養分や老廃物を出し入れする役割を果たしています。
さらにこの細胞は目の中の散乱光を吸収する役割もあり、正常な視力を維持するために不可欠です。
そのため、網膜色素上皮の機能障害は失明の主要な原因になっているとのこと。
そこで研究チームは、網膜幹細胞を移植して、網膜色素上皮の機能を修正できないかと考えました。
今回の研究はその計画の一部であり、「まず人間の網膜幹細胞をサルの目に移植してみよう」というもの。
人間の死体から網膜幹細胞を採取し、サルの目に移植
最初に、研究チームは人間の死体から網膜幹細胞を採取。
そして採取された細胞は、非ヒト霊長類であるサルの目の黄斑部(網膜の中心部)の下に移植されました。
結果として、移植された細胞は重篤な副作用もなく、3カ月以上安定した状態を維持しています。
さらに移植された幹細胞は網膜色素上皮へと成長。サルの網膜色素上皮の機能を部分的に引き継ぎ、正常な視細胞機能をサポートできました。
この結果を受けて、ブレンキンソップ氏は「幹細胞移植が黄斑変性症を治療する可能性がある」と述べています。
さらに研究チームによると、「死者から採取した網膜幹細胞は、『網膜色素上皮の無限の資源』として機能し、世界中の何百万もの患者の視力を回復させるかもしれない」とのこと。
しかし、現段階ではサルへの移植が成功しただけです。実際にヒトにも有効かどうか判断するためには更なる研究が必要でしょう。
今後の研究では、失明したサルに幹細胞を移植して視力が回復するか調査されます。
参考文献
dailymail
提供元・ナゾロジー
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